「跡継ぎはいないから、この屋台は私の代でおしまい。その私も、頑張ってあと1年だと思っているよ。最後に東京五輪のにぎわいを見てから、屋台を畳もうと思っています」
少し寂しげにそう呟くのは、東京駅からほど近い八重洲の街角で、屋台のラーメン店「ラーメン廣瀬」を営む店主(72)。この道45年の大ベテランだ。
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「1980年代に上野で営業していたときは、上野界隈だけで約50店舗、都内全体で300近い屋台があった。今はうちを入れて4店舗だけかな。『一度は廃業したけれど、生活が苦しくて再開した人が、まだ何人かいる』という噂もあるけど……。
うちは屋台を10台用意して、人を雇って営業していたこともある。私は屋台ラーメンをやるために生まれてきたようなものです」
まさに、屋台ラーメン消滅の危機である。ラーメン評論家の大崎裕史氏は語る。
「路上での屋台営業は、2015年以降、都条例で路上販売の規制が強化され、現状は『ほぼ禁止』に近い状態です。さらに商売としても、衛生面を心配する消費者が多くなり、客離れが進んでいます」
虎ノ門で「幸っちゃん」を営む店主(76)も、屋台への風当たりの強さを嘆く。
「廃業までは要求されないけど、時折お役人がやってきて、『移動しなさい』と指導をしてくる。
私は保健所から『移動飲食許可証』を取得しているけど、『道路使用許可証』は取っていない。だから理屈上では、道路で営業できないんです。でも、道路の使用許可なんて、ほとんど下りませんよ。
バブル全盛期は、ひと晩で300杯。適当に稼いで、適当に遊んで、あのころは最高だった。今になって焦ってるよ(苦笑)」
屋台ラーメンは「貴重な食文化だ」と、前出の大崎氏は指摘する。
「東京で成功を収めた『ホープ軒』や、目黒の人気店『勝丸』も、最初は屋台から始まりました。いまや、ラーメン店がミシュランで星を獲得する時代。その原点のひとつが、屋台ラーメンであることを忘れてはいけません」
最後に、水道橋「ゆきとら」の店主(67)に話を聞いた。
「屋台は、満タンの水が入ったタンクを載せると150kg。そのリヤカーを、毎晩1km引っ張って歩くんです。あと何年やれることやら……」
東京からまたひとつ、懐かしい昭和の面影が消えようとしている。
【SHOP DATA】
●ラーメン廣瀬
・場所:千代田区八重洲1丁目8周辺
・営業時間:21:30~25:00・定休日:不定休
●幸っちゃん
・場所:港区虎ノ門1丁目外堀通り沿い
・営業時間:20:30~25:30
・定休日:不定休
●ゆきとら
・場所:水道橋駅周辺
・営業時間:21:00~25:00
・定休日:週1日(天候次第)
(週刊FLASH 2019年11月26日号)