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【食堂のおばちゃんの人生相談】39歳・公務員のお悩み
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2020.01.27 11:00 最終更新日:2020.01.27 11:00
「食堂のおばちゃん」として働きながら執筆活動をし、小説『月下上海』で松本清張賞を受賞した作家・山口恵以子。テレビでも活躍する山口先生が、世の迷える男性たちのお悩みに答える!
【お悩み/マツオさん(39)公務員】
中1の息子の担任が、“大外れ” で困っている。高圧的で融通が利かず、やたら子供にプレッシャーをかけて萎縮させる。いじめ問題も、「イジメはやめよう」と原則論を唱えるだけで、具体的な取り組みはなにもしない。
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とはいえ、「もっと生徒一人ひとりに目配りして、しっかりしたクラス運営をしてほしい」などと要望したら、モンスターペアレントと思われるかもしれず、憂鬱になる。
【山口先生のお答え】
それはお気の毒に。学校には子供を人質に取られているようなもので、親とすれば正面切って文句を言いにくいですものね。
ただ、マツオさんのご相談を読むと、とても注意深く息子さんを見ておられると思いました。お父さんがそうやってきめ細かくお子さんと接しておられるなら、担任が “大外れ” でも大丈夫ですよ。担任の至らない点は、ご両親でフォローしてあげれば良いんです。
私はその担任を存じませんが、一般的に日本の公立学校の先生方は気の毒だと思います。何しろ、ものすごい過重労働なんですよ。部活動の顧問なんかやっている先生は、早朝に登校して夜遅く帰宅、深夜まで持ち帰り残業なんてこともザラにあるみたいです。教員の鬱病や過労死は多いんですよ。
夏休みや冬休みがあって羨ましいと思ったら、先生は全然休みじゃなくて、期間中もずっと仕事があるんだそうです。
私が一番疑問に思うのは、授業に費やす時間より、生活指導や会議、書類作成などの雑務に費やす時間の方が多いということです。学校の役目は、まず第一に勉強を教えることでしょう。
フィンランドは世界一の教育大国といわれています。その学校のカリキュラムを見てびっくりしました。部活動も進路指導も父兄面談も、授業以外の項目がなにもないんです。
部活動は街のスポーツクラブへどうぞ。進路相談は家庭で勝手にやってください。いじめ問題は警察に相談してください。心の悩みは専門のクリニックを受診してください。学校は関係ありません。
フィンランドの学校教育は、このようなスタンスなんですね。だから学校の先生は塾の先生と同様、勉強を教えていれば良いんです。その代わり、授業内容のレベルは厳しくチェックされます。
私はフィンランドは正しいと思います。教師は勉強を教える人であって、医者でも警察官でもお母さんでもないんです。その全ての役割を一人の教師に求めるのは不可能だと思いますよ。日本も一刻も早くフィンランドを見習って教師の負担を軽くしていかないと、教育行政が崩壊するのではないでしょうか。
私の兄は団塊の世代で、小・中学校は1クラス65人、1学年13クラスでした。今では考えられないほど劣悪な教育環境です。
それでも大した問題もなくクラス運営ができたのは、一つには親や地域社会が「先生の言うことをよく聞きなさい」というスタンスを維持していたからだと思います。親や地域社会の支援と承認があったからこそ、先生は生徒の上に立って指導できたのです。
今のように、親が率先して先生を批判する状況では、生徒は先生についていけません。
ちなみに、私の小学校一年時の担任も “大外れ” でしたが、母が批判を口にしたのは私が卒業してからでした。子供の前で先生の悪口を言ったら、子供は先生を信頼しなくなります。信頼なくして教育は成り立ちません。
話は最初に戻りますが、マツオさん、先生に授業以外のことを期待するのはよしましょう。親だって一人か二人の子供に手を焼いているじゃありませんか。先生は一人で何十人も担当してるんです。同情してあげましょう。
やまぐちえいこ
1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。就職した宝飾会社が倒産し、派遣の仕事をしながら松竹シナリオ研究所基礎科修了。丸の内新聞事業協同組合(東京都千代田区)の社員食堂に12年間勤務し、2014年に退職。2013年6月に『月下上海』が松本清張賞を受賞。『食堂メッシタ』『食堂のおばちゃん』シリーズ、そして最新刊『夜の塩』(徳間書店)が発売中