もう一方の当事者である武井氏も本誌の取材に応じた。だが、その主張は、A氏と真っ向から対立するものだ。
「そもそも、あのフェアレディZは、『納屋物』といわれる車なんです。『納屋で何年も放置されていた、希少性の高い車』という意味の言葉で、そうして市場に出てきた納屋物の車は、高額で取引されるんです。
こうした車の価値は、走行機能にあるのではなく、いわば美術品として評価されてのもの。私はA氏に『納屋物です』と、はっきり説明しましたよ。
だいたい、私はあの車をA氏に買うようにすすめたことは、一度もありません。A氏からオークションの前に、『武井さんは何を買うの?』と聞かれたので、『僕ならフェアレディZです』と答えただけですよ」(武井氏、以下同)
武井氏は、「そもそもオークションに参加するならば、実際に現物を見てから入札するのが原則だ」と主張する。
「事前の説明やカタログではなく、現物を自分で確認して、価値があると感じたら、競売に参加するべきでしょう。ですから、A氏が『現物を見ずに買った』と主張すること自体がおかしいんですよ。
しかも社員に確認したところ、A氏は当日、フェアレディZの現物を見てから、オークションに参加していたというんです。私の知る限り、A氏は車の転売もおこなう “半プロ” です。A氏は、あのフェアレディZがどのような状態の車だったのか、わかったはずです」
武井氏は、900万円での買い取りや無料の完全修理など、いくつかの和解案を提示したが、A氏は拒否したという。
「しかもA氏は、この件で私を中傷するような文章を取引先に送付していました。『もうすぐ私が逮捕される』とまで触れ回っていたそうです。さすがに耐えかねて、私のほうもA氏をすでに名誉毀損で提訴したところです」
A氏が問題の車を購入した理由のひとつであった堺について、武井氏はこう語る
「あの2018年のオークションでは、ノーギャラで挨拶に立ってくださったんです。役員になられてからも、堺さんに役員報酬は、お渡ししていません。
車好きとして、私たちの理念に共感していただいているだけなんです。こんなトラブルで、堺さんに迷惑がかかるのは本当に困ります」
堺の所属事務所は「社外取締役に就任しているのは事実」としたうえで、「トラブルについては、お聞きしております」とだけ答えた。
A氏は「話し合いで解決したかったのですが、クレーマー扱いされた以上、もう裁判しか……」と話す。
有名人の名前に惹かれて買い物してしまう経験は、誰にでもあるもの。訴訟トラブルの当事者企業の役員として、堺も傍観者のままでは、いられないはずだ。
(週刊FLASH 2020年3月10日号)