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全国で増殖「闘うデザイナー」水戸岡鋭治の新発想「観光列車」

ライフ・マネー 投稿日:2016.07.11 17:00FLASH編集部

全国で増殖「闘うデザイナー」水戸岡鋭治の新発想「観光列車」

2013年10月に運行開始した豪華観光寝台列車「ななつ星in九州」

 

 絶景+グルメ+鉄道を満喫する観光列車が続々と誕生している。クルーズトレイン「ななつ星in九州」「或る列車」(JR九州)、「ろくもん」(しなの鉄道)、「丹後くろまつ号」「丹後の海」(京都丹後鉄道)などのほか、4月23日には、「富士 山ビュー特急」(富士急行)、4月27日に「ながら」(長良川鉄道)、6月4日に「うめ星電車」(和歌山電鐵)が運行を開始。

 

 これら話題の列車を数多く手がけているのが工業デザイナーの水戸岡鋭治氏(68)。車両の内外だけではなく、シンボルマーク、クルーの制服、ポスター、パンフレットなど、観光列車に関わるものすべてをデザインしている。

 

2015年8月8日運行開始「或る列車」(JR九州)

2015年8月8日運行開始「或る列車」(JR九州)

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左が水戸岡氏によるデザイン画、右が実物

 

「私が車両デザインを始めたのは26年ほど前。JR九州の唐池さ ん(恒二・現会長)がもっと楽しい鉄道の旅をと、D&S(デザイン&ストーリー)列車などのプロジェクトが生まれました。唐池さんは『ないものを作れ!』と、お金も時間もないのに、けっこう過激に言う(笑)。

 

 私が車両のプレゼンテーションをするときは、必ず3案提出します。A案は今までにない大変な仕事。B案は現在よりも少しグレードアップしたもの。C案はこれまでと同じもの。すると、必ずJR九州はA案を選んできた。その集大成が『ななつ星in 九州』ですね」

 

 だが、理想と現実は相反するもの。たとえば、水戸岡氏が「椅子や床などの素材をプラスチックではなく木にしたい」と提案すると、JR九州の現場スタッフからは猛反対されたという。

 

「『メンテナンスが大変』『燃えやすい』『コストがかかる』云々。担当者に、『確かに高いしメンテも大変だけど、君の 子供のために列車を作るとしたら、プラスチックと木、どっちがいい?』と聞くと、『そりゃ木ですね』って答える。企業の立場に立った答えと、父親の立場になった答えが違うところが、日本をダメにしている結果じゃないか。大変だけど木にしよう、とひとつひとつ理想に向かって解いていく。その積み重ねです」

 

 それまでの常識を覆しながら、あくまで利用者の視点でデザインをするのが水戸岡流だ。

 

「だから僕は大手企業とは仲が悪い。手間のかかることをやろうとすると、『予算が足りない』『納期を守れない』『技術的に難しい』など、問題が次々と出てくる。

 

 だけど、デザインにはここまでやらないとヒットしない、というガイドラインがある。僕らはヒットさせることが義務だし、ヒットしなかったら次はない。

 

 やることをやると、成功体験となって、参加したすべての人に戻ってくる。能力がなくても手間ひまをかければなんとかなる。1日8時間労働のところを、みんながプラス1時間プレゼントすることで、クリアできる問題もある。

 

 人生1回しかないのに、ああすればよかった、と後悔するのはイヤでしょう。それは心に傷を残す。自分の心の傷は一生治りません」

 

2016年4月23日運行開始「富士山ビュー特急」(富士急行)

2016年4月23日運行開始「富士山ビュー特急」(富士急行)

左がデザイン画、右が実物

左がデザイン画、右が実物

 

 問題が発生したとき、プロジェクトが思うように進まないとき、水戸岡氏はどう対処しているのだろうか?

 

「困ったとき、憂鬱なとき、その原因を考えると、だいたい、僻(ひが)み、妬(ねた)み、嫉妬。そんなとき僕は自分で切開手術をしてみる。脳を開けてピンセットでつまらない気持ちをつまんで捨てる。

 

 イヤだと思う感情を捨てていく『不都合を受け入れる』という仏教の言葉があるけど、自分がイヤなこと、合わないことを受け入れると、人は成長する。嫌いな食べ物を食べると人は健康になるように、イヤと思っている人とつき合うと、自分の心が広くなっていく。

 

 不都合というのは自分を鍛えるためにもっとも大事なこと(要素)。困ったことが起きたら、それをおもしろがったり楽しむしかない。自分を精神的、肉体的にも健康な状態にしておくことが大切」

 

2014年7月11日運行開始の「ろくもん」(しなの鉄道)

2014年7月11日運行開始の「ろくもん」(しなの鉄道)

左がデザイン画、右が実物

左がデザイン画、右が実物

 

 水戸岡デザイン列車は、しなの鉄道(長野県)、和歌山電鐵(和歌山県)のほか、地方でも活躍中だ。

 

「ローカル線は予算が少ない。『1両1000万円の予算で』というオーダーもあるほど。でも、JR九州でデザインした張り地の在庫を流用して作ることでコストを抑えられる。あらためてデザインしなくてもいいので、デザイン料もかからない。JR九州のデザイン力で、ローカル線が元気になっていく。唐池さんも『どんどんやってあげて』という感じだから懐ろが深い。

 

 結果、より安くよりよい列車を作ることができます。今までにない楽しい車両が走ると沿線の街は変わる。駅に人が集まってくる。手間ひまかけて、正しくデザインすると、豊かなコミュニケーションが生まれ、心と体で本当に心地いい空間と時間を作ることができる。それが僕の仕事です」

 

 常に利用者の立場に立ち、運用者と闘いながら「笑顔と笑いの生まれるデザイン」を夢見ている。

 

みとおか・えいじ 1947年7月5日生まれ。株式会社ド ーンデザイン研究所代表取締役。JR九州デザイン顧 問、両備グループデザイン顧問。現在、ローカル線プ ロジェクトのほか、両備ホールディングスとともに、 森のある豪華客船を計画中

(週刊FLASH 2016年6月21日号)

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