ライフ・マネー
週刊現代「胃がん、食道がん、大腸がん……の8割は手術するな」ってホント?
ライフFLASH編集部
記事投稿日:2016.07.28 15:00 最終更新日:2016.07.28 15:00
「『信用していいものか』と言いながら、『週刊現代』の記事やコピーを持ってこられる患者さんは結構多いんです。赤線をびっちり引いてね」 愛和病院(長野市)で副院長を務める緩和ケア医師・平方眞氏はそう語る。
「週刊現代」の医療特集が医師や患者、その家族に波紋を投げかけている。週刊現代は、6月11日号で「医者と病院にダマされるな!」と銘打った「飲み続けてはいけない薬」特集を掲載。以後、医療現場に疑問をつきつける特集記事を連載中だ。
出版流通関係者は「通常号より10万部ほど多く売れている」と反響を語るが、その内容に首をかしげる向きも少なくない。
全国の医療関係者がブログなどでいっせいに反論しているほか、「週刊文春」(7月7日号)は「『週刊現代』医療特集のウソ」と大書して、その記事内容を「根拠なし!」「デタラメ」だと一刀両断しているのだ。
週刊文春が噛みついたもののひとつが、週刊現代7月2日号に掲載の特集〈胃がん、食道がん、大腸がん、肺がんの8割は手術をしないほうがいい〉だ。
週刊現代は手術で胃を全摘し、その4カ月後に亡くなった84歳の兄をもつ男性や、若い医師の手術ミスで頸動脈を傷つけられた父をもつ女性のコメントを引きつつ、こう書く。
〈最近では、次第に抗がん剤や放射線治療、免疫療法など手術に代わる治療法も一般的になってきた。それでも「手術でがんを切り取ってしまうのがいちばん安心」と考えている医師や患者はいまだに多い〉
そして、こう結論づける。
〈70歳を超えた高齢者にとって、安易な手術は8割方、後悔の種になるということを肝に銘じておきたい〉
週刊文春は〈一%以下のリスクを八〇%起こるがごとく過大な誇張で説明されています〉という医師のコメントで、これを批判している。
はたして真実はどこにあるのか。医療の最前線で活躍する医師に聞いた。
元・慶應大学医学部専任講師の近藤誠氏は、ガンは基本的に“放置”することをすすめてきた。現在もセカンドオピニオン外来を運営する立場から、週刊現代のスタンスを「医療現場での混乱を引き起こすでしょうが、正しい混乱だからいいのでは」と歓迎する。
「『8割は手術しないほうがいい』というのは僕の主張に沿っている。週刊現代がこのテーマで連載しているのは、時代のひとつの転換点みたいな気もする。いずれにしろ、読者に情報が伝わるのはいいことです。あとは読者が読み比べ、自分で判断されたらいいでしょう」
一方、「週刊現代の記事はたしかにわかりやすい」と言いつつ、「医学やサイエンスではない」と断じるのは、元東京大学病院助教で、ガン外科と腫瘍内科の2つの専門的見地からガン相談をおこなう治療医・大場大氏だ。
「どういうデータの裏づけ、どういう根拠で『8割は手術すべきでない』と言えるのか。それがないと、話になりません。これでは記事を書いた人の主観にすぎない。
いまの70歳以上の人は元気な方々がたくさんいます。これから10年、15年、元気で長生きできることが期待できるわけですから、具体的に『何のガン』『どこの部位』『どのステージ』かによっても、話は変わってきます。『手術すべき』『すべきでない』という二元論で捉えることは誤りだと思います」
ジャーナリストの鳥越俊太郎氏は「文春が論争を仕掛けたのはいいことだ」と言う。
「手術も抗ガン剤も個人差がある。たしかに、患者が100人いて、手術して100人全員が回復するわけじゃない。しかし、週刊現代のように、いい医者に巡り会わなかった人の例だけを取り上げて『手術しないでいい』というのはちょっと暴論。成功した人の話も平等に取り上げないと信頼性がない」
元厚生労働省医系技官で、パブリックヘルス協議会代表理事の木村もりよ氏が解説する。
「週刊現代の記事が反響を呼んでいるのは、日本では信頼できる機関が公表する健康・医療データが少ないのが理由でしょう。受診する前に、オンライン百科事典でもいいので、自分の病気や症状について調べておくべきです」
前出の鳥越氏は、モニターで自分の直腸を見てガンだと直感したという。患者も勉強が必要なのだ。
(週刊FLASH 2016年7月19日号)