昨年来、生食用牛肉の衛生基準が強化され、ついに今年7月から飲食店でのレバ刺しの提供が禁止になった。が、じつは今でも生牛肉を食べさせてくれる店がある。「生だけど勝手に焼いて食べてね」という“脱法”肉ではなく、厚労省の基準を満たし、保健所の認可を得た「生食用食肉取扱施設」の店だ。
というわけで向かったのが、銀座にある「武蔵別邸 巌流島」。保健所の認可を受けており、ユッケと牛刺し、牛たたきの3種類が楽しめる。店長はこう語る。
「牛肉の生食がすべて禁止されたと誤解している方が多いのですが、禁止されたのはあくまでレバーなどの内蔵だけ。認可を受けて正しい方法で調理すれば、生肉の提供は可能なのです」
基準は全国共通。ちなみに本誌が23区内の保健所に確認したところ、この認可を受けているのは20件に満たないことがわかった。認可を受けても、まだメニューで出していない店もある。 認可を受けるためには専用の手洗い、シンク、まな板、包丁、消毒器具、冷蔵庫を設置する必要があるが、業界関係者は「近年、冷蔵庫などの機器が大型化して、焼肉店の厨房はただでさえ手狭なんです。そこに専用のスペースを確保しなければいけないのだから、面積の限られた都会の店でこの認可を受けるのはきわめて難しい」と、現状を語る。
設備だけでなく、調理方法も厳格に定められている。肉は許認可工場で加工された特別の肉のみを使用する。牛肉は普通なら数週間熟成させるが、生食用は菌の繁殖を抑えるため、屠畜後4日以内に加工する必要がある。 肉は表面から1センチ以上を加熱殺菌しなければならず、その後、表面を大胆にカット。ここで肉の3分の1近くが加熱用に回される。
いちばん気を使うのは肉の温度で、10度以上になると菌が繁殖しやすいので、冷蔵庫から出したら、すぐに調理する必要がある。ここまで丁寧な調理を経て、ついにユッケが登場するのだ。
(FLASHスペシャル2012年夏増刊号)