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すき家、潜入取材「休憩なしの15時間勤務」の実態
マネーFLASH編集部
記事投稿日:2014.08.22 11:00 最終更新日:2016.03.03 22:42
7月末、「ブラック企業大賞」ノミネート企業の発表に合わせるかのように、牛丼チェーン「すき家」を運営するゼンショーHD第三者委員会が報告書を公表した。疲労による居眠り運転事故が年に7件発生し、2週間自宅に帰れないこともあるという。初めて公表された過酷な労働環境を本誌特派記者が実体験!公表された労働環境は、想像を絶するものだった――。
労働初日、午後4時に配属された杉並区内の店舗に向かうと、30代の男性店員が一人で食器を洗っていた。後に知るが「チーフ」なるバイトリーダーっぽい肩書の人を筆頭に、この店で働いているのは全員バイトらしい。仕事はホールとバックに分かれる。ホールは注文取りや出来た牛丼を運び、会計をする係。バックは調理、皿洗いをする。最初のうちはホール担当だ。
立て続けにお客さんが入ってきた。まだ注文を受けてない客、新たな来客が続く。牛丼を運び、会計をして、さらにバッシング(食器を下げること)だ。午後6時を過ぎ、客が増えてくるとだんだんテンパってきた。注文を受けてもメニューに何がついているのか全然覚えていないので、たびたび客から指摘を受ける。
通常メニューにセットメニュー、単品、トッピング、デザートなどを加えれば100を超えるすき家のメニュー。すぐに覚えきれるわけがない。
すき家では11時〜15時ごろ、18時〜23時ごろの混みあう時間以外、基本ワンオペ(一人勤務体制)の店舗が多い。勤務し始めて10日足らずで、記者も15時〜18時の客の少ない時間帯にワンオペをまかされるようになった。仕込みをしながらも、客が来れば注文を受け、自分で調理し、提供、会計と一人で一連の作業を余裕はないがなんとかこなす。
すき家は「労時」という指標に従って運営されている。本部が予測する売上高を、一定の金額で割った数字で、これをもとに投入可能なクルー(すき家では一般アルバイターをこう呼ぶ)の数が決定される。
手っ取り早く「労時」を上げるには、現場の従業員を減らせばいい。ワンオペが横行するのはこういうわけだが、記者も仕事に慣れてきたのか、「労時」や売り上げを気にかけるようになっていた。初めてワンオペをやってみて、仕事が早くなっているという達成感や、売り上げが上がっているという満足感を感じた。
深夜帯勤務の希望を出していた記者は、出勤17日めにしてついに深夜帯ワンオペ勤務となった。事前に、ふだん深夜帯を担当しているクルーと2人勤務で深夜にやる作業をひととおり教えてもらってはいたが、ほとんど横で見ていたという程度。
ちゃんと自分でできる自信は正直ない。なにしろ深夜作業にはタレ濾し(牛丼用肉鍋の煮汁のカスを濾す作業)、食器洗浄機や洗米機・飯盛り器など機械類の分解・洗浄、床や排水溝の掃除、配送の受け取り・検品、ゴミ出しなどがある。通常の接客・調理・提供・仕込み作業をやりながら、それらに一人で対応しなければならないのだ。
深夜帯時間が始まるのは22時。今日はスタートから客が途切れない。深夜2時、客が2人しかいないので、隙を見てゴミ袋を交換。まとめたゴミ袋を店前のゴミ捨て場に運ぶ。しばらくすると、食材の配送がやってきた。入荷数が伝票と合っているかを確認しながら、冷蔵倉庫へと収めていく。作業に集中していて来客に気づくのが遅れて客に「遅い」と注意を受けた。
そうこうしていると、朝食メニューの時間を迎えた。この朝食というのが非常に厄介。牛丼のようにライスに肉を盛って終了なら楽チンなのだが、牛小鉢やお新香やたまご、海苔など小物がたくさん並び面倒なうえ、洗い物も増える。そしてこの300円前後の格安朝食目当ての客も急増するのだ。
テーブルから下げた食器類が山積みになっても洗っている時間がない。油で汚れた床がヌルヌルして走るとコワい。そして気がつけば牛丼用の煮た肉がほとんどない。本来なら袋詰めされた肉を優しくほぐしながら高温に熱した肉鍋に入れるのがルールだが、今は緊急時。肉も玉ねぎもいきなり肉鍋にぶち込んでかき回す。
みそ汁も作って3時間で廃棄のはずだが、新たに作っている時間がないのでそのまま使うしかない。炊けている米も残りわずかになってきた。大慌てで洗米をして、炊飯器に火を入れるが、炊きあがるまで40分かかる。それまで米がもつか……。ワンオペで決まりどおりやってる暇なんかねーぞ!
8月上旬、「すき家のワンオペが廃止される」というニュースが世間では話題になっていた。記者は気になって深夜帯担当の人に聞いてみると、「どうせ一時的に廃止されてもまたすぐ復活するんじゃないの。前も似たようなことあったしね」という、諦めにも似たつぶやきが返ってきた。
(週刊FLASH 2014年9月2日号)