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【東京「古民家」再生記】(1)築100年の家300万円に心揺らぐ
ライフFLASH編集部
記事投稿日:2016.05.03 15:00 最終更新日:2016.05.13 14:43
2007年、青梅に引っ越した。青梅とは、東京の西の果て「奥多摩」の入り口に当たるエリアである。「なんで青梅なのか」と人に尋ねられると、そのたびにこう答えた。
「そのうち奥多摩に古民家でも買って、田舎暮らしを始めようと思いましてね」
私の事務所「人力社」で自力の山荘を建設する「奥多摩人力山荘計画」をボンヤリ考えていた私は、ゆくゆくは奥多摩に移るつもりで青梅に引っ越したのである。
近所に住んでいれば、ディープな物件もチェックできるだろう。たまたま通りかかった不動産屋でも、思わぬ掘り出し物が見つかるかもしれない。そんな目算があって住み始めた。
そして、ついにそれが当たった。東青梅駅前にある不動産屋である。来意を告げると、 「あら! ちょうどいいのがあるんですよ」。
取り出して見せてくれたのは、奥多摩駅からほど近い集落だった。等高線が立てこんだ地図の一角に印がついている。かなりの傾斜のつづら道を登った先にある家だった。
土地が150坪。築100年の古民家が建っているという。写真を見ると、まだ人が住めそうだ。
「おいくらですか?」
「300万円」
「……」
私は耳を疑った。
「300万円ですか?」
「300万円です」
腐っても鯛。奥多摩と言っても東京都である。150坪の土地が300万円で売りに出ているなんて、ちょっと考えられない。
もちろん異常に安い物件は、たまに出てくる。しかし、そういう物件はどれも必ずなんらかの「ハンデ」があるのだ。
たとえば「1000坪500万円」の物件は、住宅地の裏の広大な山林だが、土地まで幅員2mの私道しかない。車すら入れないので、1000坪もありながら駐車場を借りる必要があるという、わけのわからない物件だった。
あるいは「60坪300万円」の物件は、国道とJR青梅線に挟まれた傾斜45度の急斜面で、家を建てるための掘削と基礎工事だけで軽く1000万円くらいかかりそうな物件だった。
安い物件にはウラがある。
だから私は、この「150坪300万円」の物件も、どうせ大きなマイナスポイントがあるに違いないと考えた。
「ずいぶん安いですね」
私がやんわりと疑問を呈すると、 「固定資産税も安いんですよ。1年間に3000円ポッキリ」。
担当者は私のギモンなど斟酌せずに、明るく答えた。
資産価値ゼロ。土地にも家屋にも、ほとんど値打ちがないわけだ。
これは「お値打ち物件」なのだろうか。はたまた、なにかとんでもない「ヒミツ」が隠されているのか。次の週末、私はさっそく物件を見に行くことにした。(つづく)
<著者プロフィール>
中山茂大 1969年北海道生まれ。上智大学文学部卒。大学時代に探検部に所属して世界各地を旅行し、『ロバと歩いた南米アンデス紀行』(双葉社)を刊行。漫画編集者を経て「人力社」代表。 渡航60ヵ国以上。著書に『世界のどこかで居候』(リトルモア)、『ハビビな人々』(文藝春秋)など多数。本連載は『笑って!古民家再生』(山と溪谷社)を再編集したものです。