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【東京「古民家」再生記】(2)築100年の古民家を200万で購入

ライフFLASH編集部
記事投稿日:2016.05.13 14:00 最終更新日:2016.05.13 14:40

【東京「古民家」再生記】(2)築100年の古民家を200万で購入

築100年の古民家(写真:阪口克)

 

 東京の西の果て・奥多摩に「150坪300万円」の古民家が販売中と聞いて、私の心は踊った。いったいどのような物件なのかには、少なからず魅力を感じた私であった。

 

 ある日の週末、さっそく物件を見に行くことにした。

 

 青梅の自宅からひたすら西に車を走らせる。道は徐々に狭くなり、ついに一車線になった。対向車が心配だ。その前に落石が心配だ。2月の奥多摩には、まだ雪が残っている。スタッドレスでないと、ツルッと滑って谷底に真っ逆さま。危険がいっぱいだ。

 

 渓谷に沿ってウネウネ走って行くと、目の前に、急斜面にへばりついたような集落が飛び込んできた。  おお。ここか。……絵に描いたような里山だ。しかも一応、都内である(「都内」と言い切るには少々勇気がいるが……)。

 

  あらかじめ地形図を見ていたのだが、あれだけ込み入った等高線が、これほど急斜面になるのかと感心する。途中で佐川急便のトラックとすれ違った。すごいぞ佐川。

 

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 地元の人に案内をお願いして、ようやく辿り着いたのが、集落の最上部にある古びた家だった。築100年の古民家だが、見た目はそんなにボロくない。6畳ほどのプレハブの別棟や物置小屋が、折り重なるようにして並んでいる。3年前から無人なので、生活感を思わせるのは物干し竿くらい。

 

 カギを開けて中に入ってみる。ガランとした殺風景な部屋。古びた畳の上に、無数のカメムシの死骸が落ちている。カビ臭い。物置には農耕具やらボイラーの部品やらが雑然と積み上がっている。もしこの家を手に入れたら、これらのゴミをすべて片付けないといけない。プレハブ小屋も住めそうにないから解体である。

 

 買う前から途方に暮れてしまった。

 

 図面によると、物置小屋の向こうが畑になっているらしい。 裏に回って畑を見に行ったら、そこは傾斜30度以上もありそうな、急勾配の土地だった。ユズの木が「お詫び」のように実をつけていた。畑というよりスキー場のゲレンデのようじゃありませんか。しかも上級者向けの。

 

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家の裏手の急な斜面

 

 その傾斜を登ってみた。足下がぬめる。登りより下りの方が怖い。どうしようかと思っていたら、案の定、滑って転んでしまった。危ない危ない。

 

 やはり購入は考え直した方がいいかも。そう思いながらフト顔をあげた。そこには、信じられないような素晴らしい風景が広がっていた。幾重にも折り重なる山ひだが、奥深く、どこまでも広がっている。うっすら雪をかぶった多摩や秩父の山々が濃密な陰影を作って西日に輝いている。なんと美しい風景だろうか。こんなに美しい里山が、都内に残っているなんて奇蹟だ。

 

 私は心を決めた。

 

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 実は、その後、少々問題が起きた。駐車場になっている土地の権利が隣家とゴチャゴチャになっていて、売買できないらしいのだ。駐車場は今のまま利用できるが、購入はできないらしい。

 

 ということで、私が取得する土地面積は100坪ちょうどになってしまった。土地が3分の2になったので、200万円に値下げしてくれた。正式に購入の意向を示したところで、不動産会社が契約書を作成することになった。そして数日後の契約当日。

 

 古民家の場合、基本的に「現況有姿」(現状のまま引き渡し)なので、細かな瑕疵(かし=マイナス点のこと)については、あとで見つかっても目をつぶるしかない。私の場合、金額も安いので、現金一括払いだった。いわゆる「一発登記」である。第三者の立ち会いのもとに現金の受け渡しをした方がいいということで、司法書士の事務所で現金の授受が行われた。

 

 そして売買契約書に捺印。これ以降の契約撤回には、キャンセル料が発生するという。同時に「登記原因証明情報」と「委任状」にハンコを押した。「登記原因証明情報」は、契約に至るまでの経緯を簡単に記したもので、お年寄りを相手にした詐欺の対策だそうだ。 「委任状」は司法書士に不動産登記をお願いするためのものである。

 

 登記簿は10日程度でできあがってくる。こうして「奥多摩人力山荘」は、晴れて私のものになった。

 

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【これまでにかかったお金】

人力山荘       200万円

司法書士手数料    7万9000円

印紙税・登録免許税  1万9240円

消費税        3950円

 小計        210万2190円

 


<著者プロフィール>
中山茂大 1969年北海道生まれ。上智大学文学部卒。大学時代に探検部に所属して世界各地を旅行し、『ロバと歩いた南米アンデス紀行』(双葉社)を刊行。漫画編集者を経て「人力社」代表。 渡航60ヵ国以上。著書に『世界のどこかで居候』(リトルモア)、『ハビビな人々』(文藝春秋)など多数。本連載は『笑って!古民家再生』(山と溪谷社)を再編集したものです。

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