Netflixで190カ国に配信され、全世界が熱狂するドラマ『全裸監督』。原作は、“AV界の帝王” 村西とおる監督の半生をドキュメントで描いた同名著書だ。
ドラマのヒットを機に、村西監督と原作本の著者・本橋信宏氏に、ディープすぎて本やドラマで描けなかった「真実の全裸監督」について、語り合ってもらった。
*
本橋「主演の山田孝之さんは、オファーされたときに、出演を即決したそうですね」
村西「CMに出ているスターが、よく “駅弁” をやってくれた。山田さんは、芸に生きる稀有な存在ですよ。
彼なくして、この作品はなかった。
第1話に、(村西の)妻が自宅に男を連れ込んでヤリまくるシーンがあるんだけど、不倫現場を目撃した瞬間の絶望の表情がすごい。『あのとき俺は、こういう顔していたんだな』と思ったね。当時の自分を手鏡で見せられたようで、感動した」
同作のあらすじはこうだ。セールスマンからビニ本・裏本の世界で頂点に立った主人公・村西が逮捕され、出所後、AV界のトップを目指す。
本橋「ドラマでは、ダメセールスマンが応酬話法を身につけて成り上がっていきます。実際、監督も昔は無口だったそうですね」
村西「しゃべると母親に『男は三年に片頰』(めったに笑うな)って怒られたから、家で10秒以上しゃべった記憶はないな」
本橋「ヤクザに、『エンサイクロペディア』を売ったエピソード(第1話)も実話ですね」
村西「誰が相手でも、私に売れないものはありませんでした。たとえば、『ペットボトルの水を1000円で売れ』と言われてもできる自信がある。
お客様がおっしゃるのは、『高い』『いますぐ決められない』『同じものを持っている』など、パターンを覚えれば対応できることばかり。
断わられてもすぐに諦めず、その商品がいかにお客様の生活を豊かにするか、相手の立場に寄り添って考えるべき。性格、経済環境、バックグラウンドを理解すれば、いくらでも言葉は浮かびます。
営業マン時代は、『この石ころを売るとしたらどうするか』など、目につくもので毎日シミュレーションしていました。女性を口説くときも、イタすときも一緒。どんな角度から、どんな速度で動かすのか、相手が心を許してくれるまで、扉を叩きつづけるのです」
トップ営業マンだった村西は、テレビゲームのリース業者として財を成した。そして、1980年に、東京・新宿で「ビニ本」と出会う。
村西「歌舞伎町でうろうろしていたら、本屋に『ビニ本』があったわけ。アソコがマジックで塗りつぶしてあったから、シンナーを買ってきて、ホテルで一生懸命擦っていたのよ。印刷はぜんぶ消えちゃったけど、興奮いたしました。
それで商売になると確信し、北海道にビニ本チェーン『北大神田書店』を開業(第2話)。75日で48店舗開店させました」
本橋「ビニ本の人気は驚異的でしたね。発祥の地である、歌舞伎町のビニ本店は、昼になるとサラリーマンでごった返して、身動きが取れなくなるほど。1時間しないうちに、レジが1万円札でいっぱいになったそうです。
それから裏本。ドラマでは、『すずらん』という名前でしたね(第2話)。裏本はおもに歌舞伎町で扱われていたんですが、陰毛や性器がまる見えの写真集で、1万円から1万5000円で売られていました。夜の10時ごろに販売開始。客は1万円札を出して行列を作りました(第2話)」
村西「原価300円で、売価1万5000円だから、ボロ儲け。裏本販売店に納品に行くと、事務所で店長たちが、段ボールの中に足を突っ込みながら作業しているの。箱にはカネが入っていて、踏みつけてなきゃ溢れ出てきちゃうんだから、狂気じみた時代だったよね」
本橋「そして、監督は『裏本の帝王』に。ちなみに、側近のトシ(第1話より登場)は『裏本業界の “副” 帝王』。帝王に “副” もないんだけど(笑)。
村西「トシはヤクザじゃないけど、前科200犯くらいの顔しているの。客の7割がヤクザという喫茶店があったんだけど、トシが店に入ると、やつら、ヒットマンが来たと勘違いして、挨拶するんだよな」
むらにしとおる
1948年9月9日生まれ 福島県出身 セールスマン、ビニ本業者などを経て、1980年代からAV監督として活躍。「駅弁」、「ハメ撮り」、「顔面シャワー」などの表現を発明。「アダルトビデオの帝王」と呼ばれ、雑誌やテレビ番組に多数出演する
もとはしのぶひろ
1956年4月4日生まれ 埼玉県出身 早稲田大学政治経済学部卒。著作家・評論家。1982年に村西とおると出会い、その活動を随時執筆する。代表作に『東京最後の異界 鶯谷』(宝島社)、『ベストセラー伝説』(新潮新書)、『全裸監督』(太田出版)などがある
写真・井上たろう
(週刊FLASH 2019年10月22・29日号)