超美人のお気に入りキャバ嬢・みなきさんには、来週行くと言ってある。だったら、今日から一番遠い来週の日曜日にしよう。それまでに他の子もあたっておきたい。
僕がなるべく指名をしないのは、一度指名すると、他の女の子がもう受け入れてくれなくなるからだ。お客の取り合いになるので、指名した客には手を出さないという封建的体制は男性社会より強い。
みなきさんは例外として指名してしまったが、その代わり絶対に出勤しない日を確認しておいた。水曜日と木曜日だ。行けるのはこのどちらか。
昔は、会社員にとって水曜日は早帰り日で、飲み屋は繁盛したものだ。今でもその名残があるかどうかわからないが、木曜日より水曜日のほうが気分が乗る。客が多いと見込まれる日は女の子も多い。
選択枝が増えることはいい。それに客が多ければ目立たない。指名した以上、同じキャバ通いはお忍びというところだ。
さぁ、キャバ通い2日目である。
客はちらほらだ。思ったより少ない。帽子をかぶってよかった。めがねも変えてきた。指名をしないというルールを破った以上、慎重さを欠いてはいけない。
女の子は5名いると店員から聞いた。一人目の女の子がきた。前に来たときにはいなかった子だ。よかった。
「はじめまして、さっこです」
「はじめまして」
容姿やしゃべり方はごく普通だ。どこのキャバにも何人もいそうなタイプ。化粧はやや厚め、香水がややきつい。
ボディコン的な格好で、ひざ上20センチというところか。対面に座ったらひょっとしてと思わせる長さだ。横でも水割りを作るとき、やや斜めになると期待はできる。
チラッと足を見たら、四つ折りにしたハンカチをそっとひざ上においた。気づかれた。ああ、夢は早くも破れた……。この際だから聞いてみる。
「ハンカチ置くなら長いスカートをはいた方がいいんじゃないの。男としては対応が中途半端になるだよね、そのパターン」
「それがいいのよ」とさっこちゃんが言った。
「期待させて裏切るほうが面白いでしょ」
「はめられた……さっこチャンはキャバ嬢長いの」
「3年だよ」
「それも中途半端だね」―笑うー
「男の扱い方ってキャバクラで教えてくれるの?」
「ううん。先輩に教えてもらった」
「そ~か、そうやって、だんだん純粋な男をてなづけられるようになるんだ」
話がまぁまぁ盛り上がりを見せてきた。
「さっこチャンも昔は純粋だった?」
「どういう意味よ」
「純粋で素朴な女の子から、キレイで魅力ある女の人になったのか、という意味だよ」
「うまいこと言うね」
「手玉にした男の数だけ魅力が増えるって聞いたことあるからね」
「私そんなこと聞いたことないよ」
「そう?」
たわいない会話が続いた。
さっこは通りすがりの女という位置づけだ。ごく普通に話して時間がたった。こういう女がいるから、いい女が来たときの喜びがある。いい女ばかりだと喜びが麻痺する。そう考えると、影響はないが、必要な女であることは間違いない。
店員が来た。もう時間なのかと思うこともなく、「またね」と乾いた挨拶で戻っていった。次はどんなタイプだろう。僕の心はなぜか穏やかだった。(続く)
<著者プロフィール>
山本吾郎 1960年、名古屋市生まれ。大学を卒業後、SEとして活躍。業務先の化粧品会社で、女性に囲まれる楽しい毎日を送る。昼間は女性だらけでムラムラしたが、社内での女性トラブルはうわさが早く、その気持ちのはけ口をキャバクラに向けた。現在は、老後の生活費をためるため、多くの若者にキャバ嬢攻略法を伝授している。