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【アメリカの殺人鬼に会いに行く(4)】“地震を防ぐ男”ハーバート・マリン

連載FLASH編集部
記事投稿日:2017.01.15 12:00 最終更新日:2017.01.15 12:00

【アメリカの殺人鬼に会いに行く(4)】“地震を防ぐ男”ハーバート・マリン

『写真:getty images』

 

 アメリカ凶悪犯罪の専門家である阿部憲仁氏が、伝説の大量殺人犯に会いに行く!



 【事件概要】
 ハーバート・マリン(Herbert Mullin、1947年4月18日~)

 

 1972年から1973年にかけて、カリフォルニアで13名を殺害。はじめの3人は単発だったが、4度めは同じ日に5人、5度めは同じ日に4人を殺すなど、見境のない殺人を繰り返した。逮捕後、自分の犯行は「大地震を防ぐために人間を殺害せよ」という天の声を聞いたことによると自供している。精神鑑定では妄想性統合失調と診断されている。裁判では無期懲役が言い渡されているが、2021年に仮釈放の対象となる。

 ※

 サンフランシスコから約200kmほどミュールクリーク州立刑務所への道は、まるでホラー映画のワンシーンのようだった。ひどい嵐で、道路にはところどころ折れた木の枝が横たわっている。

 

 漆黒の闇の中を運転しながら、私はこんな状況で車が故障したらイヤだな、と思っていた。明日会う予定のハーバート・マリンは、最初の殺人のとき、ヒッチハイクしてきたホームレスを「エンジンの調子が悪いから様子を見てくれないか」とだまし撲殺している。

 

 こんな時に路上で誰かの車が故障していて、「エンジンを見もらえないか」などと言ってきたら……そんな悪い想像をしてしまう。

 

 だが、翌朝は、昨夜の嵐がウソのように晴れ渡っていた。刑務所に入り、面会ホールで10分ほど待っていると、ちょび髭をはやした痩せぎすの年配男性がやってきた。

 

「昨夜の嵐、ひどかったですね」

 私は開口一番、昨日の話をしようとしたが、マリンは「ええ。だけど今日は晴れてよかった」と話題をスルーした。そして、私が贈った日本文化についての本のお礼を言い出した。

 

「北斎の画集や神道の本、ありがとう。東洋文化にはずっと強い関心を持っているので、珍しい資料を送ってもらって本当に助かります。いろいろ読んでると、北斎は卑猥な風俗画も書いているんだね。刑務所のルールで、猥褻な絵は見られないんだけど、いったいどんなものなのか非常に興味があるね」

 

 私は事前にマリンと手紙のやり取りをしていたのだが、そこには被害者への謝罪の言葉が長々と綴られていた。まずはその気持ちが本心なのかどうか聞いてみた。

 

――手紙では事件のこと、本当に後悔してましたね。

 

「私は自分が犯してしまった犯罪に対して本当に悲しく辛い思いをしています。1日に何度も、神があの13人とその家族や友人たちの精神的な苦しみを埋め合わせてくれるよう祈っています。心底から悲しみ、悔い、後悔しています……」

 

 そのうえで、マリンは「でも、」と話を継いだ。

 

「でも、仮釈放の委員たちが私のことをいまだに社会にとって危険な存在だとみなしていることには強い疑問を持っているんです。私がかつて鑑別不能型統合失調と鑑定されたのは事実ですが、今は刑務所のお陰で完治しています。だから、仮釈放を与えるべきだと思うんです」

 

――入所してすぐにそう鑑定されたのですか?

 

「最初は反抗的で感情の欠如した反社会性障害とも言われましたが、医師の間で意見が割れ、断定とまではいきませんでした。私自身は1969年から1971年頃までは鑑定不能型統合失調で、その後、病状が悪化し、1972年に妄想性統合失調を発症し、それが原因であの5カ月にわたる連続殺人を犯したと考えています」

 

 マリンは4月18日生まれであり、同じ日付のサンフランシスコ地震(1906年)やアインシュタインの命日(1955年)に対し特別な意識を抱いていた。特に地震については、人を殺すことで地震が回避されると信じ込んでいた。連続殺人犯は、幻覚型、ミッション遂行型、コントロール願望型、快楽型の四つに分類される。彼はこの中の幻覚型に当たる。

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