この春、自分の新刊がたてつづけに3冊出た。
『まんが親』第5集(小学館)。子供が生まれた時に連載をはじめた、いわゆる子育てエッセイマンガもこれで完結。開始から7年たち、小学1年生になった娘を描いたところで、終わりにさせてもらうことになった。
潮時、という言葉があるが、男親がいつまでも娘をこと細かに観察、描写するわけにもいかないような気がして、今がそうかな、と思った。そんな、完結編です。
『おかゆネコ』第7集(小学館)。ネコの「ツブ」が、いつも体調が悪そうな飼い主におかゆを作ってやる、というマンガもこれが最終巻。
開始前は意図していなかったが、描きはじめたら『ドラえもん』に代表される居候マンガになったので、メインテーマは先住人と居候の友情&ドタバタだ。
たくさんの我が強い登場人物・動物が描けて、とても楽しい連載だった。連中との別れはさびしいが、ネタのためにおかゆを毎週作らなくてよくなって、ちょっとホッとしている。
『走れ! みかんのかわ』(河出書房新社)。描き下ろしの絵本。
広い野原を舞台に、みかんの皮が、抜け出したみかんの実を探しにゆく冒険を描いた。
保育園、幼稚園ぐらいのお子さん向けだが、まだそのへんに近い精神構造の、うちの小2やその友達もけっこう喜んでくれた。
………………ちょっとまて。
そう、思われるかもしれない。
それはお前の「売りもの」であって、買いものじゃないのでは? まったくそのとおりですが、新刊が出たら、必ず街の書店で何冊か買う、というのが、長年のならわしなのです。ゲンかつぎとでもいうか。
出版社からも何冊か(私は10冊お願いしている)もらえるのだが、人にあげたりしてなくなると「自分の本を買いに行く」行為の出番である。必要に応じて数店まわる。
若いころのように自意識でドキドキしたりはしないが、いちおう花粉症や風邪をよそおってマスクをしていく。
「あんた作者だろう」
と、書店員にニヤリと笑われることなど絶対にないのだが、念のためだ。
インターネットの時代になり、宅配の時代になり、書店も出版社も印刷会社も、私のような描いたり書いたりする稼業の者も、なかなかたいへんだ。
そのへんのあれこれを、祈るような気持ちで、自分の本を買うのだった。
妻の伊藤理佐は、献本する自著が足りなくなると、やはりマスクをして書店で買うほかに、ネット通販で10冊まとめて買ったりもするらしい。
「ちょっと順位が上がったりするんだよ。あはははは」
ということであり、それもまた彼女なりの、なんらかの祈りの形なのだろう。
以上、まるで宣伝みたいな買いものでしたが、お手にとっていただけたら幸いです。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 19'89年に連載開始の『伝染るんです。』が国民的大ヒット。『火星田マチ子』『ぷりぷり県』など著作多数。2015年、第19回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。妻のマンガ家・伊藤理佐さんと小学2年生の娘を育て中
(週刊FLASH 2017年6月6日号)