連載
吉田戦車がネットで買った本棚「ジャイアント馬場」より高い
連載FLASH編集部
記事投稿日:2017.06.14 16:00 最終更新日:2017.06.14 16:00
職業柄、本はどんどん増える。しょうがないので時期がくればなんらかの処分をして減らすのだが、それでも増えるスピードのほうが勝っている。
一度読んで、また読み返す本などそんなにないのに、「いつか必要になる日がくるかもしれない!」という思いで、蔵書は増えていくのだ。
とりあえず……、などと床に平積みしたらもうおしまい。
どこに何があるかわからなくなり、読まれることのない本が地層のようになっていく。
そこでしかたなく、久しぶりに本棚を買った。
とうぜん収納力はほしいので、高さ215センチ、幅90センチの、背が高く薄型のタイプにした。
あれこれ商品を検索し、よし、これにきめた! と通販サイトの「買い物かごに入れる」を押す。税込み1万8000円ほど。
ショップの巨大な買い物かごに、本棚が「ガコッ!」と入る幻聴がきこえた。ガタイのいい店員さんが、さすがに息をはずませている(幻視)。
注文をすませてから妻に報告した。注文前にいうと、「んー……、もうちょっと考えてみれば?」などと、購買欲に水をかけられることが多いからだ。自分は私の数百倍、ネットで買いものをしてるくせにだ。
今回は、小学2年生になった子供の本の増殖に頭を悩ませていたようで、不満顔はされなかった。
今まで自室で使っていた、高さ120センチ×幅70センチの本棚は、子供用にまわすことになった。古道具屋で買った、もともと百科事典とセット販売されていたらしい古い本棚で、図鑑の数々がよく似合う。
数日して、本棚がきた。
妻に手伝ってもらい、電動ドライバーを使って組みたてた。215センチは、かなり高い。ジャイアント馬場(209センチ)より高いのだ。
一度設置したら、そのまま部屋から出すのは不可能な高さ。
組みたて方法は、上段と下段をそれぞれ別組みしてから、下段の木のダボにボンドをぬって、よっこらせと上段をはめこみ、背面ジョイント部を2カ所、金具とビスでとめるというもの。つまり、引っ越しや模様がえをしたい時、バラすのがたいへん困難だ。
……失敗したのか? と思った。
妻は「やっちゃったね」という顔をしつつ、まあ今のところ引っ越す予定もないし、いいんじゃないの、となぐさめ顔。
前向きに考えることにして、まずは地震対策だ。最上部と壁を固定する耐震金具がついてきたが、うしろは土壁、長押、ふすま。本棚と壁がぴったりくっついているわけではなく、固定は無理だった。
「家具転倒防止用つっぱり棒」で、固定するしかないな、と思って天井に手をあててみると、一枚板が天井裏との仕切りになっているだけで、押すとギシッとたわむ。
六畳和室の天井、つっぱりに耐える強度なし。
……やっぱりやっちゃったのか? オレ、と思った。
〈つづく〉
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 1989年に連載開始の『伝染るんです。』が国民的大ヒット。『火星田マチ子』『ぷりぷり県』など著作多数。2015年、第19回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。近刊に『おかゆネコ7』『まんが親5』(ともに小学館)、絵本『走れ!みかんのかわ』(河出書房新社)。妻のマンガ家・伊藤理佐さんと小学2年生の娘を育て中
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載しています
(週刊FLASH 2017年6月20日号)