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吉田戦車「大阪城」で買った「冷麺器」意外に出番なし

連載 投稿日:2017.08.30 16:00FLASH編集部

吉田戦車「大阪城」で買った「冷麺器」意外に出番なし

 

 夏前のある日、サイン会のため10年ぶりに大阪に行ってきた。大阪は何回かおとずれたことがあるが、ほとんど土地勘がない。

 

 イベントを終えて最終日はフリーだったので、未訪問だった大阪城に行くことにした。

 

 2016年一年間楽しんだ大河ドラマ『真田丸』の、いわゆる聖地巡礼の気持ちがあった。

 

 JR環状線の大阪城公園駅で降りる。よく晴れた日で、たいへんにぎわっている。本丸広場は半数以上が海外からの観光客のように見えた。

 

 天守閣入場口は大行列で、上に登るのを瞬時にあきらめる。地図を見ながら南に一時間ほど歩くと、大阪城の出城「真田丸」があった高台がある。脳内で流れるテーマ曲。

 

 近辺には真田山町、空堀町などという町名があり、気分があがる。もより駅、玉造駅の「玉造日之出通商店街」という長いアーケード街を歩いてみる。六文銭ののぼりや、赤備え武者の「顔ハメ看板」などがあり、さすが真田丸のおひざもとだ。

 

 歩くことで、少しずつ土地勘が作られていくのは楽しい。さらに南下すると、日本有数のコリアタウン、鶴橋に出て、ちょっとおどろいた。むかし一度食事をしにきたことがある。焼き肉と幸村がむすびつかない。

 

 さらにその先、通天閣の近く、ちゃうすやま天王寺茶臼山周辺は大坂夏の陣の激戦地。

 

 真田幸村終焉の地とされ、歴史ある街の、複雑にいりくんだ土地の重なりかたにウットリする。

 

 茶臼山まで歩く脚力と時間はなく、鶴橋の迷路のようなアーケード商店街を散歩することにした。

 

 それにしても、祝日とはいえこちらもすごいにぎわいだった。この日たまたまかもしれないが、お城で見かけたような団体客は少なく、外国人客も日本人客も、少人数で気軽にご飯を食べにきている印象。地元の家族連れや、高校生など若い人たちも多い。

 

 耳に入ってくる、いわゆるコテコテな感じの会話が楽しい。洋服店のオヤジがおばちゃん客に、

 

「OLさんいろいろあるで。よってってやー」
「誰がOLやねん」

 

 みたいな、呼吸をするようなボケツッコミにいちいちしびれる。

 

 何か買おうと思ったが、生肉やキムチを持って新幹線に乗る気にはなれなかったし、2016年ソウルに家族旅行をしたばかりで、唐辛子粉や干し鱈などの乾物はまだ使いきれず残っている。

 

 けっきょく冷麺用の器を1個買った。880円。

 

 ステンレス二重の保温、保冷マグカップやタンブラーがあるでしょう。あれのどんぶり版だ。

 

 見た目も涼しげで、夏に向かう買いものとして成功したと思ったのだが、夏になってみると、あまり出番がない。

 

 食事とともに冷たいものを飲みがちなので、食べものは逆に、ギンギンに冷えていなくていいおかずや肴が多いのだった。

 

 これは、冷麺を商うお店でこそ実力を発揮できる器なのだな、と思った。

 

よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん

※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2017年9月5日号)

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