夏、誕生日前に、バッグ関係のWEB記事を読んでいたら、「長財布がちゃんと入る」「長財布も余裕で入ります」という記述を見かけた。
そうか、長財布は長いから、それが入るかどうかは大きな問題だ。バッグから長財布に興味が移り、あれこれ検索してみた。
レビューを兼ねた販売誘導サイトなど多数。日本製手作りともなれば高額商品も多い。「金運」というキーワードがけっこう目につく。
「お札にとって、もっとも居心地がいい場所は、ゆったり体を伸ばせる長財布です」
「居心地がよければ、一度出てもまた帰ってくる気になるのです」
お札の擬人化!
ラフなかっこうのあんちゃんが、ズボンのうしろポケットにズボッと突っ込んでいるような印象があったが、こんながめつい感じにメルヘンな、「お金のおうち」としての長財布ワールドがあったとは。
金運や財布に一家言ある妻の伊藤にその話をすると、「誕生プレゼントに買ってやろうか?」といいだした。今までずっと「二つ折り財布」で生きてきた。一度くらい使ってみてもいいかもしれないと思ったので、お願いすることに。
やっぱり実物を見ないと、ということで、いっしょにショップやデパートを回る。たくさんありすぎて、どれがいいんだかぜんぜんわからない。
「これがいいかも……」と思ったものは、スポンサー様に「うーん」とやんわり否定され、もうどれでもいいような気持ちになってくる。
そして、妻が気に入ったものを、自分も気に入ったような気持ちになり、買ってもらうことになった。ぱたんと折りたたむタイプ、1万円台なかば。安い買いものではないが、これでも安いほうである。
「使うのは7月6日からだからね!」
大安、一粒万倍日などが重なった、一年でも有数の「何かを始めるのにいい日」ということだった。そういうのまったく気にしない人間だが、従うことにした。
7月6日、使いはじめてみたが、小銭入れが絶望的に使いづらい。いくら入っているか確認しづらく、取り出しづらい。「これは飾り。紳士はジャラジャラ小銭など入れないものですよ」といわれているような感じ。
あと、「革がやわらかく、しっとりと」しているのが売りの商品だったのだが、そのやわらかさは、雑にあつかいづらいという欠点にもなった。ふにゃふにゃしていて真ん中から折れそう。
私は、小汚いデイパックに放りこんでガンガン出し入れできる、頑丈な「お金のおうち」を求めていたのだ、と知った。工事関係者が現場で使うような、あるいは小学生の筆箱のような、実用本位で頑丈な長財布。
それはもしかして、好みじゃないため選択肢に入れていなかった、ファスナーつきの大仰な感じのあれなのだろうか。
買ってもらったやつはとりあえずありがたく使いつつ、理想の長財布を探す旅が始まった。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2017年11月28日号)