連載
吉田戦車あの味と食感を忘れられず「カール」買いまくる
「明治カール、東日本で販売終了」のニュースが流れた時、それほどショックは受けなかった。少なくとも、スーパーやコンビニに走ることはしなかった。
もう自分で買うことはなく、きらいではないけど、ファンというわけでもない。
何年も食べていない気もするし、いや割と最近どこかで口にした気もするぞ……、それくらいの立ち位置にカールはいた。
だが、販売終了がせまる中、日に日にあの味と食感の記憶はよみがえり、スーパーの、かつて並んでいたあたりの棚を見にいっては、売り切れを確認してションボリするようになっていた。
夏に販売終了というのは、とてもカールらしいと思うのだ。
私は8月生まれなのだが、小学生の頃、友達を呼んで開いた誕生日会や、あるいはお盆にいとこたちが集まる祖父母の家に、たぶんカールはあったな、と思うからだ。
もちろん季節に関係なく、同級生が集まっておやつを食べる場所に、かっぱえびせんやポッキーなどとともにカールはいたと思う。友人のアパートで酒を飲む歳になれば、そこにもかなりの確率でいたような気がする。
三橋美智也のCMソングとともに、少年時代から青年時代を彩ってくれた菓子といっていい。
7月の終わり、近所の小型スーパーに入荷しているのを見かけ、ドキドキしながら4袋買った。
買い占めたりはせず、もちろん何袋かは残したが、4袋はあきらかに「ノスタルジーおやじの駆け込み買い」である。さいわい店の人に「4袋も……」とつぶやかれるようなことはなかった。
2袋は自分ち用に、2袋はお世話になっているお宅へのお中元とした。喜ばれたが、翌日、そこの旦那の実家が大阪だったことを思い出し、かなり本気で後悔した。
その後、海水浴に行った伊豆下田のコンビニでもカールを見つけ、日焼けした若者たちに奪われる前にあわてて2袋買い求めた。
といっても若者たちが、「やべ、カールあるじゃん!」などと目の色を変える気配はまったくなかったのだが。彼らにとってこの手の味でなじみなのは<うまい棒>なんだろうな。
宿で、初めてカールを口にする小2の娘が、1袋の3分の2ぐらい食べた。ふだんあまりスナック菓子慣れしていないせいもあるだろうが、明治製菓(現・明治)の人たちにお見せしたいような食べっぷりだった。
YouTubeでカールおじさんのCMを見せる。
なつかしく思いつつ、この、きわめて昭和なイメージで売ってきた商品が、平成29年に生産縮小するのは、無理もないことのような気もするのだった。
今後、西日本に旅したとき、みやげにカールを買うだろうか。
おみやげにはしないかもしれないが、コンビニで水や酒といっしょに買い、ホテルでさくさく食べる可能性は高い気がするな。
ともあれ、ありがとう、カール。
今思い浮かぶのは、そのひとことだ。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2017年12月12日号)