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吉田戦車、ネットを信用して手袋購入するも失敗「ダサかった」
連載FLASH編集部
記事投稿日:2018.01.31 06:00 最終更新日:2018.02.21 10:35
クロスバイクを買ってしばらくは、あちこち遠くに行けるのがおもしろくて、毎日のように乗り回していた。
今日は西武球場、翌々日は戸田競艇場、などと、素手で実用チャリと同じ気分でそんな長距離ライドをしていたら、手のひらを傷めてしまった。
はい、アホです。
シロウトの前傾姿勢で手に体重をかけすぎ、「尺骨管」というところがやられたらしい。小指と薬指がしびれ、握力が低下する症状が出た。
すぐに、手のひら部分にパッドが入った、指なしのサイクリンググローブを買った。
はめた瞬間、原作マンガもテレビドラマも大好きだった『スケバン刑事』を思いだした。ヒロインの麻宮サキが、武器である重合金製ヨーヨーをキャッチする衝撃をやわらげるためにはめていたのだ。
「薄い鉛板と羊皮を何重にも縫いこんだ強化手袋」らしく、カッコいい。この歳になってあれのコスプレ気分を味わうとは思わなかった。
自転車用の手袋なんてものを買ったのは生まれて初めてだったが、はっきりと運転が楽になった。今ではないと心細い。
その後3カ月ほどかかって、手はなんとか治った。
11月に入ると、今までいらなかった手袋の「指先部分」がほしくなった。指先が冷たくてつらいからだが、そこだけ買い足すわけにもいかない。売ってない。
そこで冬用のグローブを買うことにした。ショップに行くのが面倒で、ネットに頼った。ネットショップの「☆いくつ」は信頼できる場合とできない場合がある。
今回は信頼して失敗した。
レビューでおおむね好評に見えた、1000円ぐらいのその手袋の現物は、ダサかった。黒地に赤のワンポイントから「カッコよさ」を表現することのむずかしさが漂ってくる。
店頭で手にとっていたらまず買わない。はめ心地も微妙である。ネットの画像がウソをついているわけではなく、私の目が節穴だった、というしかない。
何やってんだ……という反省とともに、何回か使ってはみたけれど、お蔵入り。
かわりにひっぱりだしたのは、前年買った普通のニットの手袋。スマホ対応らしいが、タッチパネル操作成功率30%ぐらいのユルいやつだ。
風はスースー通るけど、東京での2、3時間の自転車乗りにはこれでじゅうぶんだった。冬の自転車にしろウォーキングにしろ、距離をかせぐうちに手袋が邪魔になる瞬間がある。
それが快感だ。
体が温まり、その熱がじわじわとかじかんでいた手指に到達し「暑っ、もういらん!」と手袋をはずす時が、とても気持ちいい。
足が生み出したエネルギーが、末端の指先に達する。「エネルギー充塡120%!」という、あのフレーズを思いだす。
出るのは波動砲じゃなくて手汗だが。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2018年2月6日号)