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吉田戦車が東日本大震災のボランティアへ出向き「鉄玉子」を買う

連載FLASH編集部
記事投稿日:2018.02.15 06:00 最終更新日:2018.02.15 09:05

吉田戦車が東日本大震災のボランティアへ出向き「鉄玉子」を買う

 

 マンガ家、編集者、デザイナー、ライターなどの有志と、東日本大震災のボランティアのために岩手県に通い始めて6年が過ぎた。昨年10月にも十数名で行ってきた。

 

 瓦礫撤去や援助物資仕分けなどの作業がとっくに終了した今、何をしに行ったのかというと、こんな感じ。

 

・2011年に瓦礫かたづけの手伝いをした釜石市のお宅にお邪魔し、近所の人たちと宴会。申し訳程度に草むしりをし、海のものをたらふくごちそうになる。

 

・「大船渡温泉」に泊まり、宴会。

 

・陸前高田など各地の復興の様子を車中から見学。

 

・盛岡に移動し、音楽祭的な小イベントに参加。似顔絵チャリティと壁画描きをする。

 

・岩手山中腹の「休暇村 岩手網張温泉」に泊まり、宴会。

 

・県庁訪問。県知事、副知事にごあいさつ。

 

 等々と、盛岡の復興支援団体「SAVE IWATE」さんに、マンガ家の団体を役立てるべくいろいろ企画運用してもらうわけだが、宴会をしに行っているともいえる。そんな道中で何をおみやげに買うかというと、「海藻」が定番になってきた。

 

 軽いから。

 

 魚介類や酒をまとめて宅配便で送ることもあるが、カバンにつっこんで移動するには乾物が一番だ。年齢的なこともあるだろう。うまい刺身や焼き魚に感動しつつ、その横につつましく並んでいる「めかぶ」にホッとする。

 

 ホテルの売店で、碁石海岸沖の昆布(80グラム)、ワカメ(35グラム)がともに500円。

 

 大船渡市の碁石海岸や、陸前高田市の高田松原は、県南内陸部の奥州市で生まれ育った私にとって、夏休みの記憶と結びついたなつかしい海だ。

 

 東京でも三陸の海藻は買えるが、目の前の絶景の海からザバザバあがって干されたばかりと思えばありがたみがちがう。

 

 そして網張温泉。魑魅魍魎から土地を守るため、蔓草の網を張ったというステキな言い伝えがあるという、その旅館の売店で何を買うかは少々迷った。

 

 最終日であり、多少重いものを買ってもいいだろうと、減塩醬油「いわて健民」(200ml・324円)と、南部鉄器の「ザ・鉄玉子」(250グラム・1080円)を買った。

 

 健康のことばかり考えているようでなんだか情けないが、健康あってこその宴会……じゃなくて支援である。

 

 鉄分補給のため鍋やヤカンに入れたりする鉄玉子は、奥州市のメーカーのもの。昔からあるのは知っていたが、初めて買った。

 

 妻の父が黒豆などを畑で作っていて、毎年送ってくれる。黒豆なのにいつもこげ茶色に煮あがり、なんとかしたいと思っていた。

 

 黒豆を黒く煮るためには鉄分が有効というので、正月用に鉄玉子を入れて煮てみた。おー、本当にいつもより黒く煮えたぞ。

 

 色出しは釘でもいいらしいが、買ってよかった。

 

 持った時の「かわいいズッシリ感」とでもいうような重量感が得がたい。常にポケットに入れて持ち歩きたくなる。

 

よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん

 

※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載

 

(週刊FLASH 2018年2月20日号)

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