連載
吉田戦車お茶会のため正座イスを購入「ズルしてる気持ちに」
連載FLASH編集部
記事投稿日:2018.02.21 06:00 最終更新日:2018.02.21 10:33
ある大学の茶道部の茶会に出席することになった。上の子供が関わっているからである。
2年前初めて体験したときは、なるほどこれが茶道か、と興味深く思いつつ、一番の感想は、「正座、つらい!」というものだった。
30分前後、畳の上に正座し続けることは、茶席の趣向を楽しむどころではない苦行であった。冗談ではなく、江戸時代の拷問「石抱き」のことなど思ったりしていた。
「超キツそうなあれに比べたら、この程度の痛みなど……」
お茶をたててくれる学生さんも、目の前の客が石抱きのことを考えて苦痛をまぎらわしているとは、想像もしていないだろう。
部活で剣道をやっていたときは、畳ですらない、板の間に正座していた。最初は地獄のように思えたが、わりとすぐ慣れた。
だから、それから数十年たったおじさんの体でも、1カ月ほど、毎日数分ぐらい正座をしていればかなり慣れるだろう、と思う。
だが、実際にそんな努力はしないのだった。
そんな経験を思い出しながら、今年どうしたかというと、迷うことなくネットで「正座イス」を買った。2580円(税込み)。
年々法事に出席する機会が増えてきて、お寺は座布団がある場合が多いけれど、正座をして読経を聴くたびに「……アレがあれば」と思うようになっていた。いつ来るとも知れない法事のために、日々正座の練習をするのもなんだかなー、と思ったし。
しかし最近は、高齢化がさらに進み、ひざや腰がつらくなってきたお年寄りが増えたということだろうか。正座用の補助イスを常備したり、和室用のイスが用意されてるお寺も目にするようになっている。
正座つらいもんなあ、と思いつつ、イベント当日。茶会の参加料は500円だ。案内され、他の客と共に正座をする。そのときさっとカバンから取り出される新兵器、正座イス。
携帯用に平たく折りたたまれているプレートを逆三角形に組みたて、お尻の下に敷く。ひざ、すね、足の甲にかかる体重が軽減され、シビレにくくなる仕組みだ。
私以外の4人の客は、とうぜんそんなものなど使わず、畳にじか座りだ。
やや座高が高めだが(あとで気づいたのだが、ノーマルサイズと間違えて「大」を買っていた)、やった、正座がつらくない!
ズルをしているような気持ちにもなったが、いや、これはズルではなく「対策」である、と胸を張り、和菓子と抹茶をいただいた。
お茶のあと、茶道具や掛物、花入れなどを客が「これはこれは……」という感じで観賞し、亭主の趣向を楽しむ時間があるのだが、道具のよさなどまるでわからず、「……ガンプラとか飾ってあったらおもしろいのに」などと考えていた。
正座の痛みがなければないで、茶席にふさわしくないことしか考えない人間、ということだろうか。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2018年2月27日号)