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吉田戦車「天ぷら鍋」買うも今の気持ちは「揚げものめんどくせー」

連載FLASH編集部
記事投稿日:2018.03.28 06:00 最終更新日:2018.03.28 08:29

吉田戦車「天ぷら鍋」買うも今の気持ちは「揚げものめんどくせー」

 

 春になると、妻の実家から義父が採った山菜が届く。山菜となるとさすがに天ぷら一択というわけで、揚げ油を買いに行くことになる。

 

 他の季節に揚げものをすることはあるが、せいぜい年に3、4回ぐらい。ふだんは外で食べたり買ってきたりでいいということになっている。

 

 そんな頻度なので、たまに揚げる時は深めのフライパンで十分なのだが、揚げもの専用鍋があったほうがいいような気持ちになって天ぷら鍋を買ったのは、2015年早春のことだった。

 

「そろそろ長野から山菜がくる季節だが、このだと、すごく上手に揚がるらしいよ」

 

 ネットで見てそそられた鍋の画像を妻に見せる。厚さ3ミリの鉄の板、などというフレーズに私は本当に弱い。

 

「買ってくれるなら、買ってもらってやってもいい」

 

 というのが彼女の返答だった。リバーライト「極JAPAN 天ぷら鍋20cm」。購入時で7000円(税抜き)。カッコいい鍋を買ったことに興奮した私は、かっぱ橋道具街に天ぷら関係の道具を買いに行った。

 

 目の粗い網杓子、「かすあげ」。持ち手のところが木製で、先はステンレスの揚げ箸。オイルポット。

 

 それらがどうなったかというと、かすあげは洗うのが面倒すぎて、一度使ったきり。揚げ箸も重くて使いこなせず、一度使ったきり。オイルポットも、使用済み油を入れてはみたものの、ほとんど再利用することはなく、活用できずに洗ってしまいこんだ。

 

 天ぷら鍋そのものは、とてもいい鍋である。

 

 ただ、1年前からメイン料理係を任されている身としては、朝晩のメシ作りにおいて「兼用できる道具こそがいい道具」であると、あらためて思い知った。つまり、深めの鉄のフライパンすばらしい。

 

 簡単な唐揚げっぽいおかずなら、フライパンでの揚げ焼きで十分なのだった。

 

 天ぷら鍋は鍋置き場の底の方で、錆びにくい製品なのにいつのまにかぽっちり錆が浮いていたりして、もうしわけない状態になってしまっている。

 

 何か揚げもの以外に使えないかな、牛鍋とか鳥鍋とか……。

 

 だがどう見ても、その深さや直径や油のそそぎ口といった、天ぷら鍋ならではの形は、鍋ものだと使い勝手が悪そうなのだった。

 

 つべこべいってないで、久々に何か揚げてやるか……、と思うのだが、あとかたづけまで含めた一連の揚げもの作業をして心底思うのは、「揚げものめんどくせー」のひとことである。

 

 なんでも揚げればうまいし、妻子も喜ぶ。でもめんどくさい。そんなことを思いながら「揚げないフライ、揚げない唐揚げ」などを検索している自分がいるのだった。

 

 台所の隅の暗闇から、本来なら炎属性のはずの天ぷら鍋の、冷たい視線のようなものを感じる。

 

よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん

 

※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2018年3月27日・4月3日合併号)

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