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産直が大好きな吉田戦車「干しシシトウ」のゴワゴワを楽しむ
連載FLASH編集部
記事投稿日:2018.05.16 08:00 最終更新日:2018.05.16 08:33
産直や道の駅が好きである。
よくいくのはやっぱり、故郷岩手県と、妻の故郷、長野県南部の店が多い。長野には蜂の子、寒天があり、岩手には三陸の海の幸や南部鉄器があるなど、土地土地の店の個性は楽しい。
地元の木で作った板の端材を売っていたりすると「おお」と思う。買わないけど。
菓子や麺類などのみやげものコーナーはだいたいどこも似たりよったりなので、おもに農、海産物コーナー、手作り食品コーナーを観賞する。
同じナスや椎茸でも、生産者の名前が書かれていたりして、ありがたみがちがうのだった。
昔は見かけなかった野菜を目にすることもある。ゴーヤーなんか今では全国区だが、昔は岩手の農家が作る野菜ではなかった。キクイモとかヤーコンとか、健康番組や雑誌でとりあげられてブームになったものもあるようだ。
何が換金作物になりうるか、農家のみなさんのチャレンジングなこころみが垣間見えるのも、産直ウォッチングの楽しみだ。
岩手県奥州市の産直「江刺ふるさと市場」で思わず手にとったのが、今回のテーマ「干しシシトウ」である。読みやすくカタカナで書いたが、商品名は「干 ししとう」となっていた。
「干し ししとう」だと舌を噛みそうなので、「干し」の送り仮名をはしょったのかもしれない。生野菜ではなく乾物である。色は真っ赤。一見、トウガラシにしか見えない。
シシトウってピーマンやトウガラシみたいに赤くなるんだな。よく考えればそうなのだが、そこまで「シシトウの最終形態」について考えたことがなかった。
好きかどうかというと、焼き鳥屋で串を頼むこともあるから、もちろんきらいではない。が、赤い。しかもカラカラに乾燥している。
たてに半割りか4分の1割りぐらいにカットされており、袋の底には種がパラパラと落ちている。畑で収穫しそびれて赤くなり、商品価値がなくなったシシトウを処分するのに忍びなく、製品化してみたのかもしれない。
「お肉の共に」というシールが貼られていて、なんだか突然な感じだが、売る前にいろいろ料理を試作してみたのかもしれない。
自宅の台所で、さっそく調理してみた。まずはもちろん水で戻す工程だ。20分ぐらいつけておく。水気を切って豚コマ肉と炒めてみた。味つけは塩。
うむ、なんというかゴワゴワしていて、何か赤い野菜の皮を無理に食べているような食感だ。キッチンバサミで細かくきざむような処理が必要かもしれない。
辛いのかと思ったら辛みはなく、噛んでいるうちにトウガラシ系のうまみ、甘みのようなものがにじみ出てくる。
赤い色はとてもきれいで、料理に彩りがほしい時などおもしろい食材ではないだろうか。商品として定着するのか、幻の乾物になるのか、見守りたい。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2018年5月22日号)