連載
吉田戦車「育児の煮つまり」を打破すべくプラレールに萌えた過去
連載FLASH編集部
記事投稿日:2018.06.13 08:00 最終更新日:2018.06.13 08:21
うちの子供は女子であることもあり、列車や鉄道にあまり興味を持っていない。私自身も、若干の「乗りテツ」的要素は持ち合わせているものの、オタクやマニアにはほど遠い、一般人である。
そんな私だが、娘が2歳ぐらいの頃からしばらく、プラレールを買い集めていた時期があった。最初は『きかんしゃトーマス』の車両を買った。テレビで見たり、デパートの屋上遊園地に遊具としてあったりして、子供も親しんでいたからである。
が、それ以降は、はっきりと自分の物欲にしたがい「D51蒸気機関車」、「サウンド江ノ電」、そしてちょっと大きい子向けのシリーズ、プラレールアドバンスの「485系特急」を買ったりした。
車両自体は、あとは電池を使わない「テコロジー新幹線はやぶさ」や、トミカを載せられる「トミカ搭載貨車」など貨車ユニットをいくつか買った程度だが、レールや橋、駅舎、踏切のたぐいはどんどん増えていった。
青いレール上をぐるぐるまわる列車を見つめているだけで心が癒されるような、少々追い詰められた精神状態の時があったのだ。男女ともによくある、子育て関連のストレスによる「煮つまり」だったのだと思う。
乳児、幼児期の子供のかわいらしさ、おもしろさを宝物のように思いつつ、それと並行して、今となっては笑い話のようにグツグツと煮つまっていた。
D51はヘッドライトが光るのだが、さらに客車をいじった。厚手のトレーシングペーパーを窓の内側に張り、百均で買ってきた、赤色光の小さいLEDライトを入れて点灯させた。夜に灯りを消した部屋でそれを走らせると、なんとも郷愁をそそる、心細くさびしい夜汽車の雰囲気が出るのだった。
妻子のことはとても大事だが「ここじゃない、どこか遠くに連れてっておくれよメーテル……」というような気持ちがなかったとはいえず、ヤバい感じだった。
さすがにそんな特殊なプラレール遊びが長続きすることはなく、その後はたまに娘と遊んだり、男児の友だちが来た時にオモテナシとして出したりした。
そして娘が小学生となった今、出番はほとんどなくなった。一度一人で遊んでみたが、今はもうプラレールに救いを求めてはいないようだった。つまり、すぐに飽きた。
ダンボールに軽くひとつぶんくらいはあるこれ、どうしよう。中古売買、あるいは寄贈について調べてみたが、プラレールのリユース状況はダブつき気味なようだった。
そんな時に、このページの担当編集者氏に男児が生まれたという吉報が! ダメもとで(家族がいろいろ買いそろえたい場合もあるからね)オファーを出してみたら、もらってくれることになった。
ありがたい、捨てずにすんだ! 私のいっときの妙な鬱屈の気配は、きっちり拭きとって贈るつもりだ。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2018年6月19日号)