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吉田戦車「登山用ベルト」に満足して一生これでいいやと思う
連載FLASH編集部
記事投稿日:2018.06.27 06:00 最終更新日:2018.06.27 06:00
ズボンの腰に締めるベルトのことを、子供のころはバンドとも呼んでいた。今、時計バンドや結束バンドには使うけど、ベルトという意味でのバンドは死語だろう。
自分や父親が使ってる細い地味なのがバンドで、ヒーローが変身前に締めているような、ごっつい革のやつがベルト、というように、ぼんやり区別していたかもしれない。
チャンピオンベルト、変身ベルトなどに象徴されるように、「ベルト」は特別な、カッコいいものであった気がする。
『太陽にほえろ!』のブームがあり、われわれ小学生もジーパン刑事(松田優作)などに憧れ、ジーンズに恋い焦がれた。同時に、ああ、太い革のベルトをいつか締めたい、と思った。
テレビの洋画劇場で好きだった西部劇の影響もあった。荒野をさすらう男は、革のベルトを締めなければならない。中学生になってようやく、パチモンっぽいジーパンとともに、革の二つ穴ベルトを買ってもらった。
さすがに変身ヒーロー気分にはもうならないが、クリント・イーストウッド気分でベルトをなでさすっていた。
成人すると、そこまでのジーンズ愛、ベルト愛はなくなるのだが、惰性でジーンズをはき、ベルトも(すでに一つ穴だったが)締めていた。
ベルトがわずらわしくなるのは、30歳前後に食べすぎ飲みすぎで腹が出始めてからである。ベルトの厚みや金属バックルのぶん、余計に腹が出て見えるじゃないか、と、怠惰な自分にではなく、ベルトにイラついていた。
その後、無印良品やユニクロが世の中に増えてきて、カーゴパンツとかイージーパンツをメインではくようになり、革のベルトはどんどん遠ざけられていった。だが、そういうズボンでもベルトが必要な時はある。
そんな時に出会ったのが、登山用のベルトだった。30代から40代前半にかけて、しばらく友達と登山をしていて、登山用品店に足しげく通っていた時期があったのだが、そこで買った。
「WALK ABOUT コンビネーションベルト」というやつ。ナイロン地で、バックル部分はプラスチック製。これが細くて軽くてとても気に入り、山以外でも日常使いするようになった。
ずいぶんよれよれになって、まだ現役だが、久しぶりにもう一本買い足すか、と思った。今は登山は休止中だけどな。まだ売ってるのかな、と「石井スポーツ」をのぞいてみると、ありました。
あいかわらずカラフルなラインナップが数種類。税込み1642円。冠婚葬祭のスーツの時にこれ、というわけにはいかないだろうが、もう、私のズボンをずり落ちなくしてくれる帯状のものは、一生これでいいやと思う。
たまにはくジーンズも、自転車で楽なようにストレッチ素材だし、荒野をさすらうかわりに首都圏をチャリでさすらう今、ベルトも革じゃなくてナイロンがふさわしいように思う。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2018年7月3日号)