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吉田戦車「グローブ」買って娘とキャッチボールするも娘は…

連載FLASH編集部
記事投稿日:2018.08.01 06:00 最終更新日:2018.08.01 06:00

吉田戦車「グローブ」買って娘とキャッチボールするも娘は…

 

 子供の頃、野球をすることはきらいじゃなかった。

 

 だが球技の才能はなく、市の少年野球大会のために毎年結成される地域のチームからは、ぜんぜん声をかけてもらえなかった。クラスマッチのソフトボールでセカンドをやったのが「私と野球」の、ささやかなピークだった。

 

 中学生以降は、ほとんど野球をしない人生を送ってきたのだが、20代後半、マンガ家の草野球チームに誘われ、まぜてもらうことになった。

 

 グローブを買い、バットを買い、みんなとおそろいの(あたりまえだ)ユニフォームも買った。試合開始前のキャッチボールが楽しかった。ボールをグローブで捕る喜びを左手が覚えていた。

 

 運動不足の体はそれだけでヘトヘトになるので、「もう試合いいからビール飲みに行こう」と、毎回なかば本気で言っていた。

 

 キャッチボールやノックなど、練習は楽しかったのだが、試合そのものはヘタゆえにあまり熱意がなく、1、2年つきあって、あとは幽霊部員になった。当時のみんな、ごめんね。

 

 バットはその後の引っ越しのくりかえしの中で処分したが、グローブはなんとなくとってあった。それを久しぶりにひっぱり出したのは「娘とキャッチボールをやろう」と思ったからだ。  

 

 なぜ、野球などまったく知らず、興味もない女子小学生とキャッチボールを? それは、体力テストの「ソフトボール投げ」で、毎年あまりいい成績が出ていない、と聞いたからである。

 

 スポーツ用品店に子供用のグローブを買いに行った。ごく普通の入門用が税込み1999円。練習用のボールが949円。さっそく公園に行き、まずは3メートルぐらいの距離で、下手投げでキャッチボールを始める。

 

 ぜんぜんうまく捕れないうえに、暑いらしく、娘はすぐにグローブをはずして、バドミントンやフリスビーをやりたがるのだった。

 

 その後、1、2回なんとかつきあわせたが、その程度では、オーバースローでびゅんと投げてパシッと捕球、みたいなレベルになろうはずもなく。

 

 今年度の体力測定では11メートルだったそうだ。30メートル以上投げた女子もいるというから「もっとおれと練習していれば……」とボヤいたら、女子としては普通だからいいんだ、と言われた。

 

 今調べたら、「キャッチボールクラシック」というゲームが存在するらしい。

 

 日本プロ野球選手会HPには「キャッチボールの正確さとスピードを競う」「9人1組のチームが、2分間で何回キャッチボールができたかを競うもの」などという説明が。野球より敷居低くて楽しそうだなあ、と思う。

 

 娘が公園で遊んでくれるあと○年で、楽しい、といえるレベルのキャッチボールができるようになるのかどうか。肩や腰や足の腱をグギッとやらない程度にがんばってみたい。

 

よしだせんしゃ 
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん

 
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載

(週刊FLASH 2018年8月7日号)

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