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吉田戦車「七味唐辛子2018年モデル」を買うまでの長い道のり

連載FLASH編集部
記事投稿日:2018.09.26 11:00 最終更新日:2018.09.26 11:00

吉田戦車「七味唐辛子2018年モデル」を買うまでの長い道のり

 

 長野県諏訪郡原村の妻の実家には、中央本線で行く。最近は、3、4泊する妻子に、私が一泊だけ合流するパターンが多い。

 

 最寄り駅、茅野駅まで、特急で新宿駅から2時間~2時間半。一度普通列車を乗り継いで行き、たいへん楽しかった。またやりたいのだが、原村まで4、5時間以上かかるとなると、なかなか実行できない。

 

 

 特急は「あずさ」と「スーパーあずさ」があり、スーパーがついている方が速い。速いのだが、その速さを実現するシステムゆえに、伊藤家の家族たちには評判が悪かった。酔うからである。

 

 長年スーパーあずさとして走ってきた「E351系」という車両は、カーブ時の減速を抑える車体傾斜の方式として、振り子装置という機械を採用していた。

 

 つまり、カーブでハッキリと、座席が右に左に傾く。そのローリングはもちろん制御されていて、私は平気だったが、乗りもの酔いしやすい体質の伊藤母や伊藤姉妹、そしてうちの娘には地獄であった、という。

 

 ゆえに、妻は指定席を予約する時にあずさを選んでいた。過去形で書いているのは、E351系は今年の春に引退して、新型車両「E353系」に代をゆずったからだ。

 

 今年のお盆に茅野駅で降り、車で迎えにきた伊藤に「新型だったでしょう」と言われて気づいたが、そういえばスーパーあずさなのにローリングがほとんど感じられなかった。

 

 伊藤も大丈夫だったそうだ。先代の「制御つき自然振り子方式」が「空気ばね車体傾斜方式」に変わったらしい、ということをあとから知った。

 

 では、乗りものに弱い人たちを酔わせ続けたE351系は、「残念な」などと形容されるべき車両だったのか。「JRの誇りにかけて、高速バスなどには絶対負けぬ!」と気負い(想像です)、速さを優先するため、何かを犠牲にしてしまっていたのだろうか。

 

 否である。私はかつてバイク乗りであり、トロいライダーなりに、走行時の車体の傾きを好んでいた。今まで意識していなかったが、私はスーパーあずさの右へ左へのローリングを、ちょっと楽しんでいた気がする。

 

 ありがとう、E351系。なんだかむりやり感のある感謝の気持ちだが、お疲れさま。一泊してあわただしく帰京する日の茅野駅。

 

 売店で目にして迷わず買ったのが、長野みやげの定番「八幡屋礒五郎」七味唐辛子の、2018年イヤーモデル。

 

 私が「アイアンマン色」と呼んでいる、金色のキャップに赤いボディがデフォルトの七味缶が、緑色だ。E351系とE353系、新旧車両の絵が描かれている。

 

 列車に興味があるわけではないが、この色ちがいは買うしかない。「中の唐辛子も緑色だったらいいな!」と思ったが、ふつうに赤かった。

 

よしだせんしゃ 
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん。最新刊『忍風! 肉とめし 1』『来れば? ねこ占い屋』(ともに小学館)が発売中!
 
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2018年10月2日号)

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