●フランスの出生率が高い理由
「人口置換(おきかえ)水準」という言葉がある。聞きなれない言葉だが、「人口が増えもしなければ減ることもない、均衡した状態となる合計特殊出生率の水準」のことである。
「合計特殊出生率」もわかりづらいが、簡単にいえば一人の女性が一生に産む子供の数のことだ。現在の日本の人口置換水準は2.07である。つまり、一人の女性が平均2.07人子供を産まないと、今の人口は維持できないということである。
ところが、厚生労働省が昨年発表した2013年の合計特殊出生率(以下出生率)は1.43である。その差は大きい。この状態が続けばどんどん人口が減っていく。
実際にこの1月に発表された同省の「2014年人口動態統計の年 間推計」によると、出生数は100万1000人と過去最低だった。
一方で死亡者数は126万9000人。死亡者数が26万8000人も多く、 過去最大の減少幅となった。仮にこの状態が6年続けば、東京オリンピックが開催される2020年には、人口が161万人減ることになる。これは青森県の人口より多い。
ところが、実際の人口減少のスピードはそんなものではないらしい。
政府の経済財政諮問会議が設置した「選択する未来」委員会が昨年発表した予測では、現状の出生率の水準が続けば、2010年代後半から2020年代の初頭には年平均50万~60万人、2040年代には100万人と加速度的に減少する。
そして、50年後には総人口が約8700万人と現在の規模の3分の2になり、しかも人口の約4割が65歳以上という、かつてない「超高齢化社会」になると警告している。
そうなると労働力人口の減少が問題となる。労働力が減れば生産力が落ち、経済規模が縮小する。縮小は縮小を呼び税収が 減少し、国の財政も社会保障も破綻する。貧困にあえぐ恐ろしい未来が待ち構えているというわけだ。
フランスは出生率の減少を克服した国として有名である。出生率は2006年以降、およそ2で推移していて、ヨーロッパ屈指の高出生率を誇る。
フランスは出生率を上げるために家族手当、子供をもつ家庭に有利な税制、育児休業制度や休業手当、多様な保育サービス等々の施策を実施した。
しかし、日本と根本的な違いもある。欧米諸国は婚外子の占める割合が高いのだ。
日本の婚外子率がわずか2.1%なのに対し、フランスでは嫡出子より婚外子のほうが多い。婚外子が出生率を上げている要因のひとつとされるのであれば、結婚観や社会環境が異なる日本の出生率を上げるのは容易ではない。
●ドイツでは国債の発行を停止
その点、注目すべきはドイツだ。出生率は日本より低く、人口減という同じ悩みを抱えている。人口は8052万人(2014年外務省)と、先述の50年後の日本の総人口推計より650万人も少ない。
にもかかわらず、そのなかで堅実な経済成長を果たし、EU(欧州連合)経済を牽引している。経済が成長している証しとして2015年予算から新規国債の発行を停止し、無借金で歳出をまかなっていることが挙げられる。
それに対し日本の2015年度予算における国債発行高は約37兆円で、予算全体の38.3%を占める。国の借金はすでに1000兆円を超えている。借金経営もいいが、ツケは国民に回される。
子供を産むか産まないかは個人の問題である。出生率を上げるための環境整備は当然だが、一方で人口が減った場合の経済を含めた国家経営のあり方をさらに検討すべきだろう。
(週刊FLASH 2015年3月31日号)