連載
村田がオリンピックに出る前から夢を記した「未来日記」
『2009年の全日本選手権』
そもそもアスリート契約をしたわけでもない一般のサラリーマンが、オリンピックを目指すのも珍しいケースだ。
「上司から許可をもらうまで、戦う相手はずっとパソコンでした。エクセル、ワード、そんな基礎でもボクシングに生活をかけてきた自分には強敵でしたね(笑)。しかも仕事の後にアスリート・レベルのトレーニングをするのって、年齢に関係なく、精神的に本当にしんどいんですよ」
これはオリンピックを志す社会人ボクサーたちが異口同音に語ることだ。彼らの大半は、学生たちにパフォーマンスで劣るようになり、有給休暇を使っての試合出場に限界を感じていく。
それでも、村田は夢を捨てなかった。
「とにかく小さな目標をつくって、それを達成することを繰り返していたら、ある日、軌道に乗りました」
村田は欧米のライバルたちでも追いつけないようなレベルまで計画を練りあげ、オリンピックを制覇。そのボクシング・セオリーは、今や多くの学生ボクサーたちが参考にし、社会人ボクサーたちが己の境遇と照らし合わせている。
村田といえば、未来に起こる出来事を先に書き記す「未来日記」が、ボクシングと無縁の人にも話題となった。「金メダルを取れました、ありがとうございます」と村田はオリンピックに出る前から記していたという。
だだし、これには後日談がある。
「実は日記、もう書くのをやめたんです。計画を立てることは、そこにとらわれるっていう短所もあるので」
プロ入り後の村田にどんな心境の変化があったのかは追ってレポートしたいと思う。