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「村田諒太 vs. アッサン・エンダム戦」PREVIEW
I'm Ready!FLASH編集部
記事投稿日:2017.05.15 18:00 最終更新日:2018.04.11 15:56
村田諒太が世界初挑戦をするWBA世界ミドル級王座決定戦がいよいよ5月20日、有明コロシアムでゴングとなる。日本人五輪金メダリストとして初のプロ世界王者を目指す村田は、日本人で竹原慎二ただ1人しか世界王者になっていない激戦のミドル級で、再びゴールドに輝くことができるのか。ランキング1位、アッサン・エンダムとの試合を占ってみよう。
両者のキャリアを比較すれば、村田の今回のミッションは非常に厳しいと言わざるを得ない。プロでの実績では雲泥ともいえる差があるからだ。エンダムは35勝21KO2敗。村田は12勝9KO無敗。このカメルーン出身のフランス人は村田の3倍の試合数をこなしている上に、その中身でも村田を引き離している。
エンダムはこれまでに、現WBOミドル級暫定王者のアブタンディル・クルツィゼ(ジョージア)、元WBO王者のピーター・クイリン(米)、前IBF王者デビッド・レミュー(カナダ)と対戦経験がある。クルツィゼには判定勝ち、クイリンとレミューには敗れたものの、ダウンを喫しながら試合を判定まで持ち込んだ。暫定王者からの自動昇格ながらWBO世界ミドル級王座を手にしたこともあり、世界のトップとしのぎを削ってきた経験値は高い。
一方の村田はといえば、7戦目でWBO15位にランクされていたダグラス・ダミアオ・アタイデ(ブラジル)にKO勝ちしているものの、「エンダム有利」という予想は極めて自然と言えるだろう。
村田をプロモートする帝拳ジムの本田明彦会長は、試合が決まった直後、メディアに次のように話していた。
「いまなら実力では向こうが上。これを逆転できるかどうか。試合までの2カ月が勝負になる」
エンダムのスタイルは村田とは対照的だ。ガードを固めて前に出る村田はどちらかといえば無骨というイメージだが、エンダムはフットワークを使い、相手の前進をかわしながらボクシングを組み立てる。直近となる昨年12月の試合では、試合開始早々、右一発でアルフォンソ・ブランコ(ベネズエラ)をKOしてパンチャーの顔を見せたが、パワーよりもスピードと技巧で勝負するタイプであることは間違いない。
村田は試合のポイントを「僕がエンダムをつかまえられるかどうかだと思う」と語っている。エンダムは足で村田のプレスをかわしながら、機を見てパンチを打ち込む、といういつも通りのスタイルを選択するだろう。ジャブを突きながら、打ち終わりに合わせるフック気味の右ストレート、ガードの隙間を打ち抜くカウンターの右アッパーは脅威。エンダムはよく動いて的を絞らせず、かつカウンターという防御線を張り巡らせているのだ。
村田はエンダムを追いかけ、カウンターをかいくぐってパンチを打ち込まなければならない。こちらの心配をよそに、参謀役の田中繊大トレーナーは「村田はアマチュア時代に、スピードのある選手とはたくさん試合をしている。つかまえられないという心配はあまりしていない」と淡々としたもの。確かに12ラウンドという長丁場のプロと違い、アマチュアはわずか3ラウンド。よりスピードが生きる世界に村田は身を置き、世界選手権銀メダル、五輪金メダルを獲得している。
そしてひとたび近づいてしまえば、形勢は一気に村田に傾く。エンダムはディフェンスに甘さがあり、クイリン戦で6度、レミュー戦で4度もダウンを喫している。危険な距離に入ったとき、意外なほどあっさりパンチを食らってダウンしているのだ。ダウン後の回復ぶりは驚異的とはいえ、相手の打たれ脆さは、必ずや村田に優位に働くであろう。
村田が勝利を引き寄せるとすれば、まずは序盤にエンダムの右をもらわないこと、そして慎重かつ大胆に圧力をかけ続け、攻撃の手を緩めないことだろう。村田本人が言うように「結局は自分のスタイルであるガードをしっかりして相手にプレッシャーをかけ、自分の距離にもっていき左をセットして強い右ストレートを顔面、ボディに打ち、左フックを返す。いいバランスが保てればジャブ、アッパーなど他のコンビネーションも自然に出ると思うが、まずはシンプルに自分のスタイルで攻めたい。もちろん当日ゴングが鳴ってみなければ判らないこともあるけど、それが通用しなかったら相手が上だったということ」。大舞台でひるまない強さこそが、村田の最大の武器かもしれない。
一発で試合を終わらせるパンチを両者が持っている5月20日の村田とエンダムの世界ミドル級タイトルマッチが、瞬きする暇さえない「濃い」試合を、そして日本のプロボクシング史に残る夜になることを期待したい。
(撮影/久保貴弘)