5R以降は村田が優勢に試合を進めた。エンダムのガードの上から右を叩きつけると、エンダムは力なく後退する。すぐに手を出すところはさすがと思わせるが、いかんせん下がりながらのパンチでパワーはなく、またこれを村田がブロックしているから効果は薄い。7Rには村田の右でエンダムがロープに吹っ飛ばされた。村田がプレッシャーを強め完全にペースを掌握しているように見えた。
エンダムはダメージを被りながらも、執拗に手だけは出し続けた。8Rには村田にロープを背負わせてコンビネーションを打ち込んだ。村田のパワフルな一発がエンダムの足をゆらし、エンダムが動きながらジャブ、右を村田のガードの上から叩き込む。終盤は似たような展開に終始した。
村田が無理にKOを狙わなかったためか、終盤に大きな山場は訪れなかったが、それでも村田がエンダム対策として会長やトレーナーと練習してきた攻撃、防御とも出せていて優勢のままにゴールテープを切ったかに見えた。終了ゴングが鳴ると、エンダムは力強く両手を上げたが、それは勝利を確信したというよりは、必ずそうしなければならないと考えているボクサーの習性にしか見えなかった。
しかし、リング上の村田だけは、その後に起きるよもやの出来事を敏感に感じ取っていたのかもしれない。
「ちょっと胸騒ぎみたいのはしました。オリンピックのときは、なんとなく勝ったんだな、という感じがしていた。僕は(試合が終わって)勝ったよと手を挙げましたけど、挙げながらも変な予感は少ししていました」