リングアナウンサーが読み上げたスコアは、116-111でエンダム、117-110で村田。割れただけでも意外だったが、最後に115-112でエンダムとコールされると、有明の観衆が一斉に「エーッ!」と声をあげ、ほどなくコロシアムは静まりかえったのである。
試合後、記者会見に現れた村田は判定に一切の不満を述べなかったが、ジャッジに関しては次のように語った。 「もしかしたら、あのジャブを、ダメージングブローではないけど、ボクシングをうまくしている、たぶんジャブを取ったということだと思いますので。そこは納得せざるを得ないんじゃないですかね」
確かにエンダムはジャブを多く放ち、手数では村田を上回った。エンダムの勝利につけた2人のジャッジは、8R以降すべてのラウンドをエンダムに与えた。勝ったエンダムのコメントも紹介しておこう。
「2人ともパンチが当たっているという印象があったと思うが、よくよく見ると、村田は1ラウンドにつき右が2、3発当たっている程度だ。それに比べると自分のほうが、手数が多かったし、ジャブで効かせたところもあったし、コンビネーションも打てていた。そこの印象の差ではないか」
いくら手数を出しても村田はそれをブロックしており、逆に村田は手数が少なくても、繰り出したパンチでエンダムは何度もふらついており、ダメージの差は明らかではなかったのか。そう見たファン、関係者は多かったと思う。かつて日本を代表する審判として世界で活躍した森田健氏に聞いてみると、次のような答えが返ってきた。
「現在はラウンドマストシステムで、微妙なラウンドもどちらかに振り分けなくちゃいけません。どちらにつけていいかわからないとき、手数の多いほうにつけるというジャッジがいます。今回、エンダムの勝利につけたジャッジは、そういうことだったのではないか。私の採点は2ポイント差で村田選手の勝利でした」
日本人2人目の五輪金メダリストから、日本人2人目のミドル級世界王者へ。日本ボクシング史上最大とも言えるプロジェクトは、こうして第1章の幕を閉じた。