そして第2章はこれまた思わぬ形で早くも動き出した。アクセルとなったのは判定内容だった。まずはWBAのヒルベルト・メンドサJr会長が、いち早く「今回の判定に怒りと不満を感じる」と異例の声明を発表。試合を詳細に検証することなく、選手権委員会に再戦指令を要求する考えも明らかにした。日本のメディアだけでなく、海外のメディアもこれに同調。「村田に再びチャンスを」の声は確実に高まっている。
採点ばかりに目がいきがちだが、今回の試合で最も大事なのは、村田がミドル級で世界トップクラスのエンダムと互角以上の戦いを演じたということだと思う。この試合を終える前、村田はプロで12戦、しかも本当のトップ級と試合をしていないのだから、その力量はファンのみならず、世界の関係者でさえ測りかねていた。
今回、村田はキャリア最高の試合をし、曲者のエンダムとあれだけ戦えたということは、いつ次の世界戦の舞台が用意されてもおかしくないし、どんなトップ選手と試合をしても、好勝負を演じられるということだ。今回は慎重に戦いすぎたところもあったが、今後はもっと大胆に、本来の攻撃力を発揮できるだろう。「村田に再びチャンスを」と海外の関係者が考えたのは、それはただ「判定の犠牲者」というだけではなく、村田がそれだけの実力を持っていることを証明したからにほかならない。
村田は現時点で、今後について語っていないが、本人が望むのであれば、おそらく新たなチャレンジは周到に用意され、プロボクサー村田諒太の第2章が幕を開ける日がやってくるのではないだろうか。
最後に付け加えておきたいエピソードがある。村田が試合翌日、同じホテルに宿泊していたエンダムに声をかけ、互いの健闘を称えあったというエピソードだ。
日刊スポーツが報じたところによると、村田は「互いにベストを尽くせた。素晴らしい体験をさせてくれてありがとう」と伝え、エンダムは「また会えるのを楽しみにしている」と返し、握手を交わしたという。
村田はまさかの判定にショックを受け、エンダムもまたバッシングを受け、傷ついたに違いない。推測にすぎないのだが、村田はエンダムの心中を慮ったのではないだろうか。だから「俺たちはベストを尽くして戦ったのだ。周りがどう見ようと、その事実は変わらない」と伝えたかったのだろう。2人とも本物のボクサーでありスポーツマンだった。
写真/久保貴弘