皆さんは山城をご存知ですか? 険しい山の地形を利用して籠城し、敵を迎え撃つために作られた砦のことを指しますが、4〜5年前からこの山城が秘かなブームとなっているようです。
今回は、山城が800カ所以上ある鹿児島で、地元民しか知らないディープな旅を企画している本田静さんをご紹介します。
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地域密着型イベント企画会社「宙(そら)の駅」代表で、自ら観光ガイドを務める本田さんにお会いしたのは、昨年秋に参加した鹿児島ツアーのときでした。
あまりに話が面白くお上手なので、鹿児島で活躍するタレントさんかと思いきや、イベント企画会社を経営する社長さんでした。
本田さんが、どれだけ面白い観光ガイドさんかという一例をあげてみると、たとえば、空港への出迎え時には宇宙飛行士が着ているオレンジ色のユニフォームで登場し、冒頭から記憶に残る旅を演出してくれます。
また、移動の車中で、蘊蓄好きのお客様が本田さんの説明に異議を唱えたとき、さっと上着を脱ぐと、シャツに「諸説あります」の文字が書かれていました。議論をヒートアップさせず、笑いで収める小道具使いのうまさに脱帽です。
本田さんは、やはり小さい頃から個性的なお子さんだったそうです。
中学では、女子のいない部活を求めて柔道部の女子部をつくり、
高校時代は、甲子園に出たいと先生に相談するも、女子は無理と言われてソフトボール部を立ち上げてしまいました。
勉強が嫌いで、早く自立しようと、自衛隊に行くことも考えましたが、高校の先生のアドバイスで進路変更し、長崎大学へ進学。在学中に教員資格を取得し、卒業後は、県内の小中学校で教員をしていました。
しかし、大規模な海上自衛隊航空基地を持つ鹿屋市の学校へ転勤となったのをきっかけに、自衛隊への憧れが再燃。有事の際だけ招集がかかる予備自衛官補の資格を取得しました。
教員の仕事をしながら、予備自衛官としての活動を両立させようとしましたが、残念ながら、実際の任務に就くことはありませんでした。
7年半の教員生活の後、何か新しい仕事をしてみようと、鹿児島の繁華街・天文館でフォークソングカフェ「音楽館Rain」を開店します。
「天文館での開業を機に、天文館の名前の由来や歴史的背景を知りました。鹿児島は、今も昔も、宇宙の玄関であると同時に科学技術の街でもあることから、『サイエンスカフェ』などのイベントを開いたのです」
天文館は、江戸時代、薩摩藩主が天体観測や暦の研究施設を建てたことが名前の由来です。そして、現在も鹿児島県には、種子島と内之浦にロケット発射施設があるのです。
「さまざまなイベントを開催するうち、噂を聞きつけた旅行業協同組合からスカウトされ、店を両親に任せ、旅行やイベント企画の仕事を始めることになりました」
しかし、組織での限界を感じていた本田さんは、旅行だけでなく、飲食やお土産など、多岐にわたってプロデュースしていきたいという強い思いから、2016年4月に独立して「宙の駅」を立ち上げました。
「後ろ盾はなくなりましたが、100%やりたいことができるので、すごく楽しいです。しばらく宇宙施設のガイドなどをやっていましたが、ほかに集客できるものはないか考えていたところ、ヤブの中にある山城にたどり着きました。奈良時代末から戦国時代に作られた山城を調べていくと、面白いように歴史のパズルがつながったのです」
全国に4万カ所あると言われる山城のうち、841カ所が鹿児島県内に存在するそうです。私にとっても初めての山城ツアーでしたが、本田さんのガイドで、山城に潜む足軽の気持ちを想像するというユニークな体験ができました。
「ようやく旅行業界にも明るい兆しが見えてきました。海水浴場や温泉を楽しめるのはもちろん、タイミングが合えばロケットの打ち上げも見られるかもしれません。
9月のシルバーウィークには、天文館で宇宙を学ぶイベント『コスモガーデンズ』も開催します。鹿児島と結婚してもいいくらい、私は鹿児島が好きなんです」
笑いのツボを心得ている本田さんのガイドは、本当に楽しいです。山城ツアーは山道を歩くので、歩きやすい服装と靴でお出かけください。
●日下千帆(くさかちほ)
1968年、東京都生まれ。1991年、テレビ朝日に入社。アナウンサーとして『ANNニュース』『OH!エルくらぶ』『邦子がタッチ』など報道からバラエティまで全ジャンルの番組を担当。1997年退社し、フリーアナウンサーのほか、企業・大学の研修講師として活躍。東京タクシーセンターで外国人旅客英語接遇研修を担当するほか、supercareer.jpで個人向け講座も