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女子アナ横井弘海の「エンタメ時間」玉三郎の楊貴妃に思わずため息

芸能・女子アナ 投稿日:2020.10.23 16:00FLASH編集部

女子アナ横井弘海の「エンタメ時間」玉三郎の楊貴妃に思わずため息

歌舞伎座

 

 人気テレビドラマ『半沢直樹』(TBS系)の最終回放送からまもなく1カ月が経ちます。けっこうはまっていたので、いまだ「半沢ロス」です。それにしても、劇中、歌舞伎役者の方々の顔芸を含めた芸達者ぶりには目を見張りました。

 

 新型コロナの収束がいつになるのかまだ見えませんが、好きなドラマも終わり、家にこもり続けるのは気持ち的に限界。注意しながら、近場から出かけようと思っています。ならば「まずは歌舞伎!」と思いたち、数日前、歌舞伎座に出かけました。

 

 

 昔から舞台、映画、コンサート、展覧会は大好きです。折に触れて、その見どころや裏側を私なりにご紹介できたらと思います。どうぞよろしくお願いします。

 

 かつて東京・東銀座の歌舞伎座前はいつも舞台がはねた観客でにぎわっていました。

 

「芝居は休んではいけない」
 歌舞伎の世界の当たり前です。なにしろ、昭和天皇崩御の際も、3日間喪に服した後は派手な看板を外して公演を続けたと聞いています。

 

 それが、今回は約5カ月間の休演。ファンにも関係者にも激震が走ったことでしょう。歌舞伎座は8月に公演を再開しましたが、「芝居は休まない。でも、コロナを出さない」ため、感染症拡大防止対策を徹底。さまざまな工夫をこらしています。

 

 実際に行った歌舞伎座は、出血大サービスの観があります。

 

 現在、公演は各部入替制の4部構成。出演者は松本白鸚、片岡仁左衛門など重鎮揃い。クラスターを避けるため、出演者、スタッフも4部制だそうです。

 

 なのに、料金は各部1等席8000円。1階正面の最高の席がその値段。これまでは昼の部、夜の部の構成で2万円くらいでしたでしょうか。しかも座席は前後左右が空席ですから、どこから観賞しても見晴らしのいいこと!

 

 幕間がないとか、劇場内での飲食禁止、大向うや掛け声の禁止など、従来の歌舞伎の楽しみが制限されてはいます。まだ外で観劇するのにご心配な方の気持ちも理解できますが、あの人間国宝、坂東玉三郎が独り舞台をつとめる第四部でさえ空席があったのは驚きました。

 

 さて、第四部は口上と映像×舞踊の特別公演『楊貴妃』一幕です。

 

 舞台の間口91尺(約27.6m)の端から端まで立てられた金屏風の中央に玉三郎さんがひとり正座し、歌舞伎で「みなみな様」を意味する「いずれも様」と両手をついて挨拶されるだけで、なんだかありがたく感じたのは私だけでしょうか。

 

 挨拶に続いて、映像と実演を織り交ぜながら歌舞伎座の舞台裏を案内してくれました。「すっぽん」と呼ばれる花道に切られた小さなせりの機構や、さらには映像でご本人の楽屋を見せてくれたり。

 

 これまた「えー」とおののきます。楽屋って普通の人が入ることなどできない禁断の場所ですよね! 部屋に何があったかは秘密ですが、歌舞伎にお客様を戻さなければと、玉三郎さんはきっと一肌脱いでいるのでしょう。

 

 そして、お待ちかねの夢枕獏作『楊貴妃』へ。演目は玉三郎さんの代表作のひとつです。舞台奥に設置された紗幕に映し出された2017年の『楊貴妃』の映像と、実在の玉三郎さんの舞が同時に進行していきます。

 

 紗幕に投影された映像は、亡くなった楊貴妃の魂を探すように玄宗皇帝に命じられた方士(まったくイメージが異なりますが、『半沢』で東京中央銀行大和田取締役を演じた市川中車さん)が、蓬莱山にその魂を呼び出す。

 

 そして、在りし日の美しい楊貴妃が皇帝と過ごした思い出を舞うというストーリー。紗幕に手をかけるしぐさだけでもなんと神々しいのでしょう。

 

 絶世の美女とうたわれた楊貴妃がどんな女性だったのか知る術はありませんが、私にとっての楊貴妃は、豪華な髪飾りをつけ中国風の衣裳を身に纏う目の前の玉三郎さん。

 

 そこだけ違う空気が流れるような幻想的で繊細な舞。同時に舞う映像の中の玉三郎さんは少し若く、実物より深い角度で官能的に背をそらしていました。

 

 でも、実物の玉三郎さんの歩き方、身のこなし、長い袖を使った手の動かし方など、極楽で平和に遊ぶような優雅さは異次元のもの。思わずため息がこぼれます。

 

 舞い終え、観客のやまない拍手に応える玉三郎さんと同じ空気を吸う幸せを堪能した後、ふっと我に返りました。コロナ予防のマスクの毎日に甘えて、すっかりスッピンに慣れ、服装もいい加減になっている怠惰な自分がちょっと恥ずかしくなりました。

 

 急に他の女方も見たくなり、翌朝、第一部『銘作左小刀 京人形』も見に行ってしまいました。常磐津連中と長唄連中の掛け合いでストーリーが展開する見どころ満載の華やかな演目。

 

 こちらでは京人形の精を演じる中村七之助のみずみずしい美しさに息をのみました。「立てば芍薬、座れば牡丹」とは古い言い回しですが、京人形のように美しく、艶やかかつコミカルな舞踊に心が躍ります。本当に綺麗!

 

 また、中村芝翫演じる左甚五郎の女房おとく役の市川門之助のお芝居も秀逸。女方の世界は深いものだなぁ、と急に目覚めました。

 

 玉三郎さんも七之助さんも、女方が「女」を作品に仕上げていくには細部の研究と稽古に加え、心情的にしっかり女性を感じ取ることが大切だと記しています。そうでなければ単なる「女装」になってしまうと。

 

 しばらく人の目を気遣うことなく生活していた自分が、人からどう見られていたのか、内心ハラハラです。

 

 さて、11月の『吉例顔見世大歌舞伎』には、『半沢直樹』で東京中央銀行証券営業部の伊佐山部長を熱演した市川猿之助も出演します。これまた楽しみです。そして、お洒落をして「ふつうに」歌舞伎座に行ける日常が1日も早く戻ることを願うばかりです。

 

〈イベント情報〉
●東京・歌舞伎座公演
『十月大歌舞伎』2020年10月27日まで
『吉例顔見世大歌舞伎』2020年11月1日~26日(6と18は休演)

 

横井弘海(よこいひろみ)
東京都出身。慶應義塾大学法学部卒業後、テレビ東京パーソナリティ室(現アナウンス室)所属を経てフリー。アナウンサー時代に培った経験を活かし、アスリートや企業人、外交官などのインタビュー、司会、講演、執筆活動を続ける。旅行好きで、訪問国は70カ国以上。著書に『大使夫人』(朝日新聞社)

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