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古き良きアメリカの光景を残したグランマ・モーゼスの素敵な100年/女子アナ横井弘海の「エンタメ時間」
芸能・女子アナFLASH編集部
記事投稿日:2021.12.03 19:19 最終更新日:2021.12.03 19:58
モーゼスおばあさん(グランマ・モーゼス)の愛称で親しまれ、アメリカ人なら誰もが知っている国民的画家、アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス(1860-1961)。その生誕160年を記念して、国内で16年ぶりの回顧展「グランマ・モーゼス展―素敵な100年人生」が東京・世田谷美術館で開催中です(~2022年2月27日)。
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テーマはニューイングランドの自然、季節の移ろい、家族や地域コミュニティのなかで営まれた穏やかな日常。70代で本格的に描き始め、80歳のとき、ニューヨークで初めての個展を開き、100歳まで描き続けました。今回、愛用品や関係資料を含む130点が展示されています。
幸せオーラあふれる「村の結婚式」という作品のポスターに惹かれました。画家として遅咲きのグランマ・モーゼスの人生を知るだけでも、人生100年時代に勇気づけられること間違いなしと思い、美術館に誘われました。
人生の大半を農家の主婦として家庭を切り盛りしたグランマ・モーゼスは、70代になり、リウマチの悪化で得意の刺繍絵が上手くいかなくなってから、絵筆を手に作品を描き始めます。農村の暮らしを素朴な筆致で描いた作品が、偶然、村を訪れたコレクターの目にとまり、ニューヨークで展示されるや人々の心を打ち、たちまちにして人気作家になりました。
20世紀の半ばにアメリカで最も成功をおさめたアーティストのひとりと評価されており、1960年、彼女の誕生日である9月7日がニューヨーク州で「グランマ・モーゼスの日」と定められました。
海外でも作品が展示され、大統領から表彰を受けるほど有名になっても、農家の一主婦であることに誇りを持ちつづけ、堅実な暮らしを守ったそうです。生涯アトリエは持たず、寝室やキッチンの脇の小部屋で制作し、絵具入れや筆洗は化粧品などの空瓶を使用。生涯に描いた1600点以上の作品は、第2次世界大戦で疲弊し、不安にさいなまれた人々の気持ちを癒し、元気を与えたと言われます。
絵画の教育を受けておらず、いわば我流の素朴な作品の数々。でも、テクニックが完璧だから人が感動するわけではないことを教えてくれます。
本展を監修された成城大学名誉教授の千足伸行氏いわく、「目はタドンがついているみたいで、人形のようでしょ。ところが、それが風景に溶け込むと生き生きとして、日々是好日といいましょうか、幸せに生きる人々が表現されていますね」と独特な褒め方をされました。
確かに、不思議とどれも心に染み入る絵です。
個人的には、春の訪れの予兆として、メープル(サトウカエデ)の樹液がめぐり始める2月に、樹液からメープル・シロップと砂糖を作る光景を描いた「シュガリング・オフ」が大好きです。
私も経験したことがあります。メープルの樹液をバケツに採取して、シロップを作ったり、砂糖を作ったり、積もった雪の上に樹液を垂らしてメープル・キャンディを作ったり。楽しかったなぁ。グランマ・モーゼスの子供時代には、コミュニティの季節行事として、みんなで協力していたのですね。絵画の細部まで目を凝らしているうち、自分の思い出と作品がオーバーラップしていきました。
モーゼスが描くクリスマス、感謝祭、ハロウィンなども、昔はこうした季節の行事が、もっと神聖で意味深いものだったのかもしれないと感じました。
田園での暮らしから紡ぎだされたカラフルな風景画のなかには、グランマ・モーゼスの生きた時代に、もう失われていた過去の題材もあるそうです。
彼女の生きた101年は、機械化、工業化、都市化が急速に進んだ時代。両親や雇い主から聞いた昔の生活を、「これは描いておくべき、伝えていくべき」と考えて、構成した作品です。「古くて昔懐かしいものを描くのが好きなのです」と本人が記しているように、建物ばかりではなく、記憶もよみがえらせて後世に残してくれました。
それにしても、70歳にして新たな挑戦には、人間はいつからでも始めることができるという希望を与えてくれます。
「私の人生は、振り返ればよく働いた1日のようなものでした。人生とは、私たち自身がつくりだすもの。いつもそうでしたし、これからもそうなのではないでしょうか」と、グランマ・モーゼスは、92歳のときに出版した自伝『私の人生』で振り返っています。
世田谷美術館が建つ砧公園は、園内に多摩川の支流・谷戸川が流れ、上流には吊り橋が架かる豊かな自然であふれます。グランマ・モーゼスの田園風景とは少し異なりますが、芝生が敷きつめられた広場でお弁当を広げ、展覧会で穏やかな冬の一日を過ごすのもいいなぁと思います。
横井弘海(よこいひろみ)
東京都出身。慶應義塾大学法学部卒業後、テレビ東京パーソナリティ室(現アナウンス室)所属を経てフリー。アナウンサー時代に培った経験を活かし、アスリートや企業人、外交官などのインタビュー、司会、講演、執筆活動を続ける。旅行好きで、訪問国は70カ国以上。著書に『大使夫人』(朝日新聞社)
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