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『ゴジラ』から『日本沈没』まで特撮黄金期を支えた美術監督の世界/女子アナ横井弘海のエンタメ時間
芸能・女子アナFLASH編集部
記事投稿日:2022.04.15 17:00 最終更新日:2022.04.15 21:03
東京都現代美術館で「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」が開催されています(6月19日まで)。
井上泰幸氏(1922-2012)は、特撮のパイオニアである円谷英二監督のもと、『ゴジラ』から特撮美術スタッフとしてのキャリアを本格的にスタートさせ、多大な功績を残した美術監督です。
他の展覧会に比べてなんとなく外国人の姿が多く、熱心に図面やデザイン画など数百点の展示に見入っています。
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『ゴジラ』はもちろん大好きですし、『空の大怪獣ラドン』も『大怪獣バラン』も『モスラ』もかわいい。映画『日本沈没』やテレビ番組『ウルトラQ』など、特撮の黄金時代の空気を感じられる、心躍る展覧会です。
実は、井上氏の日本大学芸術学部の恩師、山脇巌氏の言葉が紹介されていると聞いて足を運びました。舞台美術に高い関心を寄せていた同氏の奥様の実家にときどき遊びに行くのですが、「誰も作ったことのないものを作れ!」と、当時の山脇教授に言われたことを井上氏が生涯胸に刻んで仕事をされていたと聞き、とても興味がわいたのです。
「特撮」とは特殊撮影の略で、最近はSFXという言葉が多く使われているかもしれません。日本では、ご存じ、円谷英二監督が海外の特撮映画『キングコング』などに影響を受けて研究を始め、怪獣映画などを通して、1950年代以降、日本独自の映像技術として発展させました。
尺貫法による寸法が使われたそうで、後の映像文化や社会に多くの影響を与えました。1960年代には、ゴジラやキングギドラが海外でも暴れまくり、大人も子供も熱狂しました。
『ゴジラ』に多大な影響を受けたと公言している映画監督にはスティーブン・スピルバーグ 、ジェイムズ・キャメロン、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートンなど綺羅星のごとくいます(参考:「平成24年度メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業 日本特撮に関する調査」/森ビル株式会社)。
さて、そんな日本特撮の父・円谷英二監督を支えた井上氏は、几帳面で妥協しない人だったそうです。会場に展示されたロケハンのスケッチやデザイン画、イメージボードなどを見ると、確かに納得します。
「監督は口では表現できないけれど、きっと欲しいものがある」と考えては、「誰も作ったことがないもの」を作るさまざまなアイデアを提供したのでしょう。
怪獣の襲来から宇宙、潜水艦、町の建造物、そして、火山の噴火など自然現象まで、CGのない当時はすべて手作りのミニチュアや模型で作ったのですよね。
特撮技術は、まさに職人芸の集積。スタッフのチームワークも欠かせなかったことでしょう。会場で流れていた貴重なメイキング動画では、スタッフのどなたからも真剣で誇らしげな思いが感じられ、それも素敵だなぁと思いました。
特撮に心を鷲づかみにされた子供に、あの『エヴァンゲリヲン』の庵野秀明監督がいます。6歳のときに映画『サンダ対ガイラ』を見て以来、井上監督たちの仕事から影響を受けたそうで、2012年夏には、東京都現代美術館で「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」を開催しています。
展覧会では、カラー怪獣映画第1作『空の大怪獣ラドン』で、当時34歳だった井上氏が作った西日本鉄道福岡駅ターミナルビル周辺のミニチュアセットが復元されました。担当したのは『シン・ゴジラ』で特撮美術監督を務めた三池敏夫氏で、スケール20分の1で再現されています。
綿密な井上氏のミニチュアの世界には、独特の存在感と空気感があります。このコーナーは記念撮影できますので、ぜひどうぞ。
ところで、CGの登場による技術的表現の変化により、日本が世界に誇ってきた「特撮」の技術は、継承が危ぶまれています。黄金期に作られた貴重なミニチュアや着ぐるみや造形物も失われようとしています。
そもそもミニチュアの建物や小道具は劇中で破壊されたり、墜落させたりする目的で制作されるので、撮影終了時にはほとんどが原型をとどめることがないようです。ですが、その特徴的なデザインや細密な造型は第一級の現代美術品と言えるものも少なくありません。
井上氏らが生涯をかけた「特撮」の技術や経験。この展覧会でインスパイアされた若者が、新たな時代の特撮文化を作ってくれないかと、心から期待しています。
横井弘海(よこいひろみ)
東京都出身。慶應義塾大学法学部卒業後、テレビ東京パーソナリティ室(現アナウンス室)所属を経てフリー。アナウンサー時代に培った経験を活かし、アスリートや企業人、外交官などのインタビュー、司会、講演、執筆活動を続ける。旅行好きで、訪問国は70カ国以上。著書に『大使夫人』(朝日新聞社)
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