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『不思議の国のアリス』の魅力を再認識…変わりゆく現実の写し絵だからこそ不朽の名作に/女子アナ横井弘海の「エンタメ時間」
芸能・女子アナFLASH編集部
記事投稿日:2022.07.30 16:00 最終更新日:2022.07.30 16:00
東京・港区の森アーツセンターギャラリーで開催中の「特別展アリス―へんてこりん、へんてこりんな世界―」(10月10日まで開催)。
イギリスの数学者チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンが、「ルイス・キャロル」の名で書いた児童小説『不思議の国のアリス』は、1866年に刊行されました。1871年には続編として『鏡の国のアリス』も発表され、以後、一度も絶版になることなく、170以上の言語に翻訳され、今でも世界中に愛され続けています。
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『不思議の国のアリス』は、ドジソンが親しく付き合っていたヘンリー・リデル家の3姉妹ロリーナ、アリス、イーディスと一緒にピクニックに出かけ、その際に即興で作った少女の冒険物語がきっかけで誕生しました。挿絵を、風刺画家として活躍していたジョン・テニエルに依頼したことで、いまも多くの読者が抱く “アリスの世界” のイメージが形成されたことは間違いないでしょう。
今回の特別展は、英国ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館を皮切りに世界巡回中の展覧会で、『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』が児童文学の枠を超え、160年にわたって各分野に及ぼした影響と魅力を網羅して紹介しています。いったいなぜ『アリス』は不朽の名作になったのか――。
展示は5つの章で構成されています。
「第1章 アリスの誕生」は、ドジソンの手書きの構想やテニエルの原画をはじめ、物語を生んだイギリス・ヴィクトリア朝の時代背景を紹介。
「第2章 映画になったアリス」は、初期のサイレント映画からディズニーの『ふしぎの国のアリス』(1951年公開)、ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)、『アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅』(2016年)などを紹介。
「第3章 新たなアリス像」は、シュルレアリズムを代表する画家サルバドール・ダリの挿絵や、草間彌生、「イギリスポップアートのゴッドファーザー」と呼ばれるピーター・ブレイクの作品などが展示されています。
「第4章 舞台になったアリス」は、英国ロイヤル・バレエ団の公演などを、「第5章 アリスになる」では、日本の「パンク・ロリータ」衣装など、アリスの今日的な魅力を探究しています。
アリスの世界がいかにさまざまな分野に影響を与えているか感心しますが、なかでも当時の時代背景を示す展示は興味深いものでした。それを読むと、ドジソンが批判精神にあふれる人だったとわかります。
アリスの物語が生まれたヴィクトリア時代は、産業革命による経済発展でイギリス帝国が絶頂期にありました。たとえば、「愛は家庭から」という19世紀のティーポットは、時代を映す典型的な美しいオブジェクト。説明はこんなふうに書かれていました。
「アフタヌーンティーという概念は、1830年代にベドフォード公爵夫人により導入され、瞬く間に人気になりました。ドジソンは茶会の人気と、しばしば奇妙に思えるエチケットに着目して、堅苦しい社会慣習をパロディ化して、『狂ったお茶会』の場面を創作しました」
『不思議の国のアリス』に登場するドードーの複製骨格も展示されています。オックスフォード大学自然史博物館のコレクションで、「実在した鳥だったのか!」と思わず見入ってしまいました。説明には「ドードーのような絶滅動物は、幻想的で、非現実的、滑稽と見なされるようになりました」とあります。ドジソンは、アリスたちをこの博物館によく連れて行ったそうですが、その当時の意識がアリスの世界に息づいていることがわかります。
アリスは形や大きさを変えながら,「不思議の国」「鏡の国」を行き来し、つねに「お前は何者?」という問いを何度となく突きつけられながら冒険しましたが、展覧会の会場では、そんな原作の世界観に没入できる遊び心あふれる演出もあり、子供から大人までアリスの世界を心ゆくまで楽しむことができます。
ディズニーやティム・バートン、サルバドール・ダリも草間彌生も、なぜこれほどアリスの世界に惹かれ、インスパイアされたのでしょう。作品を見ながら、そんな「なぜ?」を想像するのも楽しいかもしれません。
『不思議の国のアリス』には、産業化とグローバル化で変わりゆく現実社会が反映され、文化、政治、科学といった普遍的なテーマが盛り込まれています。ナンセンスな言葉遊びや、当時よく知られていた教訓詩や流行歌のパロディも満載。そうした知識を得たうえでもう一度『アリス』を読んだら、また異なる感激がありそうです。
横井弘海(よこいひろみ)
東京都出身。慶應義塾大学法学部卒業後、テレビ東京パーソナリティ室(現アナウンス室)所属を経てフリー。アナウンサー時代に培った経験を活かし、アスリートや企業人、外交官などのインタビュー、司会、講演、執筆活動を続ける。旅行好きで、訪問国は70カ国以上。著書に『大使夫人』(朝日新聞社)
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