職人の手によって魂を込めて作られた食器やカトラリーは、持ったとき手になじみやすく、見た目にも柔らかさを感じさせてくれます。
今回ご紹介する美女は、漆器や箸、木製のフォークやナイフ、そして鉄瓶など、本当によい生活道具をセレクトして紹介している髙森寬子さんです。85歳となった現在も、東京都文京区小石川でギャラリーを主催されています。
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東京都豊島区出身。第2次世界大戦中、小学校1年生から仙台に疎開していた髙森さんは、当時を振り返り、将来を考えることもなく、ぼんやり過ごしていたと語ります。
今のように、子供が遊ぶビデオゲームや手の込んだおもちゃはありませんでしたが、お店屋さんごっこが好きで、千代紙やセロハンで飴やお菓子を作り、商品に見立てて遊んでいたそうです。
「せっかく綺麗に作ったおもちゃのお菓子が売れてしまうのが嫌で、『買わないで』なんてお客さま役の友達に言ってしまうことがありました。ギャラリーを持った当初も同じような気持ちになることがあり、おかしく思いました。
自分の好きな作品が売れてしまうと嬉しい反面、寂しい気持ちにもなって……。まとめ買いしてくれた知人が、『申し訳ないから』と言って、作品の一部を戻してくれたこともありました(笑)」
髙森さんのお父さまは、明治生まれの編集者。「女性も仕事を持った方がよい」という考えでした。そんなお父さまの影響を受けて、高校卒業後はドレスメーカー女学院(当時)で服飾デザインを学び、有名な女性デザイナーのお店で働くようになりました。
「でも、数週間でやめてしまいました。お給料が歩合制だったのですが、商品知識や経験のない新人は先輩に尋ねながらオロオロするばかり。
また、帰宅は夜9時すぎ。当時は、まだ街灯も少ない時代でした。暗い夜道を帰るので、毎日、親が駅まで迎えに来てくれていました。世間知らずだったころの恥ずかしい話です」
1959年、婦人画報社に入社。ファッションや手芸の記者として働き始めます。
「当時の婦人雑誌のファッションページには、自分で洋服を作れるように製図が付いていました。服飾の専門学校を出ていたので、製図が読めたのです。何もわからないのに、これだけは重宝されました」
この頃の髙森さんは、水を得た魚のように夜遅くまで楽しく働いていました。有名デザイナーの服の撮影に合わせてバッグや靴などを揃える、いまでいうスタイリストのような仕事をしたり、原稿を書いたり。
しかし、体調を崩して3年ほどで退社し、ファッションや手芸のフリー編集者として活動を始めました。
生活道具の使い手という現在のお仕事につながるきっかけは、1979年から始めた伝統工芸品の取材でした。
「たとえば木でできた漆器は、何より手触りがよく、口に触れたときの温かみも素晴らしいものです。適当な軽さがありがたいし、飽きも来ません。丈夫に作られていて、そのうえ修理も利くので長く使えるんです。
そんな毎日の暮らしで使う道具について、使い手が発言できる時代が来たと感じていたので、取材はすべて愉しかったです。おこがましくも、使い手の立場で作り手と使い手をつなぐ通訳のような役割を目指そうと考え始めました」
そして、1998年、漆器を中心とした生活道具に触れて買うことができるギャラリー『スペースたかもり』をオープンしました。
「かねてお付き合いがあった和菓子の店『一幸庵』さんが移転する際に、ビルの3階を使いませんかとお誘いいただき、エッセイスト兼ギャラリー主催者になる決心をしました。売り上げよりも企画ありきで、作り手と使い手が出会い、理解を深め合う場を提供しているつもりです」
今年6月、『85歳現役、暮らしの中心は台所』(小学館)を出版。“髙森流” 台所収納法やギャラリーへの思い、使いやすい器を中心とした数々の生活道具が紹介されています。
次の展示会は、10月中旬に予定されている「福田敏雄 普段使いの漆の器展」だそうです。
「ずいぶん年を取ったと我ながら驚いていますが、使い手のひとりとして、もう少しの間、今の作業を続けていきたいと思っています」
この先も、まだまだ現役で素敵な生活道具を紹介してくれることでしょう。
■自己実現のための3カ条
(1)やりたいことが見つかったら、その実現のために辛抱強く努力する
(2)目的を目指して、手段・手法を組み合わせる工夫をする
(3)共感者を獲得する
●日下千帆(くさかちほ)
1968年、東京都生まれ。1991年、テレビ朝日に入社。アナウンサーとして『ANNニュース』『OH!エルくらぶ』『邦子がタッチ』など報道からバラエティまで全ジャンルの番組を担当。1997年退社し、フリーアナウンサーのほか、企業・大学の研修講師として活躍。東京タクシーセンターで外国人旅客英語接遇研修を担当するほか、supercareer.jpで個人向け講座も
( SmartFLASH )