「年代ものの自転車があるのですが、修理できますか?」
役所広司(61)が、自宅近くのロードバイク専門店を訪れたのは、8年ほど前のこと。同店の店長が言う。
「クロモリ(クロームモリブデン鋼製)の重厚なロードバイクでしたが、丁寧に使われていたようで、1週間ぐらいで修理したら喜んでくれて……。ウエアを着るとかじゃなく、普段着でロードバイクを乗りこなしている姿を何度も見ました。うちは20万円級のロードバイク専門店で、珍しい修理道具などを扱っているのですが、興味深そうに眺めていて。自転車が好きで、気どらない素敵な方だと思いましたね」
ロケットスタートを切った『陸王』(TBS系)。制作チームは、同じく池井戸潤原作の『半沢直樹』(2013年)、『下町ロケット』(2015年)をヒットさせた福澤克雄監督率いる “福澤組” だ。
「失敗できないプレッシャーはあるが、失敗するはずがないという自信がみなぎっている。放送が終わると、すぐにニューイヤー駅伝。『陸王』の勢いそのままにニューイヤー駅伝を盛り上げたいという狙いから、2016年末から制作を発表していた」(TBS関係者)
存続が危ぶまれる老舗足袋業者「こはぜ屋」が、ランニングシューズの開発に挑戦する企業再生ストーリー。じつに15年ぶりとなる連ドラ主演で、役所は「こはぜ屋」の四代目社長・宮沢紘一を演じている。信念を貫き愚直に足袋を作ってきた主人公が、仲間の信頼を武器に挑戦していく本作は、まるで役所の役者人生のようである。
「役所さんはとにかく真面目な仕事人。ほとんどNGを出さない。役に入り込むために撮影直前まで台本を読み込み、役を体にしみ込ませている。連ドラは台本完成から撮影までの期間が短いため、なるべく早く台本を上げてくれるよう、役所さんが頼んでいる」(制作会社スタッフ)
22歳で千代田区役所職員から一念発起し、役所は仲代達矢が主宰する「無名塾」の門を叩いた。無名時代には日雇いバイトで食いつなぎ、演技に没頭。テレビデビューを経て、1990年代からは主戦場を映画に移した。転機となったのは『Shall we ダンス?』(1996年)。以降、オファーは絶えない。
<いろんな人間を演じてみたいと常に思っています>
<(役に近づけない苦しさについて)やっぱり苦しんだときのほうが喜びは大きいですね。ですから、いろんな役が来て、どれをやるかっていうときに、苦しそうなのを選ぼうかなと、最近は思っているんです>
(ともに「週刊文春」2014年1月30日号より)
もうひとつ、トップ俳優になっても変わらない役所の魅力は、その穏やかで自然体の人柄だ。
休日には自転車や日曜大工を楽しみ、ハロウィンで近所の子供が自宅を訪ねれば、本人が応対してお菓子を渡すこともある。
「役者としての凄みとか、そういう変化はあると思います。でも恥ずかしそうに控えめに笑う役所さんの笑顔はいまも変わっていません。それが凄いと思うのです」(映画監督・周防正行氏)
無名塾時代、高円寺の四畳半から稽古場のある世田谷までの約40分を、自転車を漕いで通い続けた。試行錯誤しながら走り続けるーー役所のリアル『陸王』人生は、あのころから何も変わっていない。
(週刊FLASH 2017年10月31日号)