こんな松岡修造の姿を誰が想像しただろうか。「熱くなく」「遠慮がち」で「無口」 な姿を、今まで見たことがない。
その理由は、ある男の存在だった。
今月15日、都内で「平昌2018冬季オリンピック P&G『ママの公式スポンサー』キャンペーン新CM発表会」が行われ、「お母さん、ありがとう。羽生選手篇」の新CMが発表された。
羽生結弦選手といえば、このイベントの6日前、NHK杯の公式練習中にジャンプで転倒、右足首を負傷してしまった。平昌オリンピックまで100日を切った今、連覇が期待されるなかでの負傷に心配の声が高まっている。
この日、羽生選手はVTRで出演したが、それは負傷したためではなく、もともと「天の声」だけの出演だった。ケガの直後とあって、声だけとわかっていても、多くの取材陣が集まった。
この日のゲストは松岡に、オリンピック女子レスリングメダリストの吉田沙保里選手と、もう一人、オリンピック男子フィギュアスケートメダリストのエフゲニー・プルシェンコだ。
プルシェンコといえば、2000年代に圧倒的な強さを誇り「皇帝」といわれたロシアのフィギュアスケーターであり、バンクーバー五輪で4回転ジャンプを跳んだ唯一のスケーターである。そのプルシェンコが負傷した羽生選手についてコメントをしたのだ。
スポーツ記者たちは一言一句もらさないようにと、プルシェンコの言葉に聞き入っていた。プルシェンコが話し、日本語に訳されるまで、会場内がシンとなり、緊張感でいっぱいだった。
プルシェンコは羽生選手に熱いエールを送った。
「焦ってはいけません。そして、他の選手と戦ってはいけないことも彼には言いたい。克服すべきなのは、恐怖心。幼少から積み重ねてきたことを、晴れの舞台で出せばいいだけです。
今回の五輪では4回転ルッツは必要だとは思いません。4回転を3回やれば充分だと思います。なんといっても、ユヅルは他の選手と滑りがまったく違う。
しっかりした軸を持っているので、必ず回復して、全世界に滑りを見せてくれると信じている」
プルシェンコのコメントに松岡は「羽生さんについて、こんなにも正面から真摯に答えてくださって、凄いです。感動です」と、イスから立ち上がって、でも、いつもより小さなジェスチャーで訴えていた。
イベント終了後の囲み会見も、右側からプルシェンコ、吉田、松岡と並ぶはずが、どんなに「吉田さんの隣でお願いします」と言っても、決して近づこうとせず、1メートル以上も離れてしまうのだ。
質問も、松岡にふると「僕はいいから、プルシェンコさんに聞いて」と、またもや1メートルも離れてしまう。
いまだかつて、こんなに熱を感じさせない松岡を見たことがない。プルシェンコがこのようなイベントに出席することは初めてであり、さらに、羽生選手について丁寧にかつ敬愛の念を持って話をするプルシェンコに対して、松岡の最大級の「敬意」 なのだろうと思った。敬意が、いつもの熱血を封印させたのだろう。
しかし、最後に出たのだ、松岡修造の熱血が。
囲み会見の最後に吉田沙保里に質問した。
――吉田さん、オリンピックは、どうされるんですか?
「えっ、東京ですか? はい、できるなら、出たいです」
こう笑顔で語った瞬間、後ろにいた松岡が私の後ろにすっ飛んできて、「今、今、何て言った! 出ると言ったよね。今まで発言してなかったよね。凄いタイミングで、凄いこと聞いちゃったね! 勇気あるよ、ちゃんと聞いて!」と、私の左肩をニヤッとしながら、パシッと叩くのだ。
おっ、いつもの松岡修造に戻った!(写真・文/芸能レポーター川内天子)