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それは2001年、お笑い審査員の歴史を「松本人志」が変えた

芸能・女子アナ 投稿日:2017.12.13 11:00FLASH編集部

それは2001年、お笑い審査員の歴史を「松本人志」が変えた

『キングオブコント』

 

 世界の歴史がイエスの誕生以前と以後で「紀元前」「紀元後」に分かれるように、お笑いネタ番組の審査員の歴史は「松本人志以前」「松本人志以後」に分かれている。

 

 2001年に松本人志が『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)の審査員を務めるようになってから、お笑い賞レースの審査員は芸人がやるものという認識が広まり、定着していった。「芸人の芸人による芸人のための賞レース」という形式が一般的になったのは、松本が登場してからのことだ。

 

 この時代の大転換を考えるにあたって、歴史を少しさかのぼって見ていく。

 

 1980年にフジテレビの『THE MANZAI』という番組をきっかけにして「漫才ブーム」が起こり、B&B、ザ・ぼんち、ツービートなど生きのいい若手漫才師が続々とスターになっていった。

 

 それに触発されて、テレビ各局では新たな才能を発掘するためのネタ番組が次々に始まった。日本テレビの『お笑いスター誕生』、テレビ朝日の『ザ・テレビ演芸』などがその代表例である。

 

 これらの番組の審査員のなかには、芸人だけでなく、演芸評論家などの文化人やタレントもいた。この時期にはまだ芸人が審査員を務めるべきだという風潮がそれほど強くはなかった。

 

 その理由には、テレビの中で芸人の地位が低かったことがあると思われる。1980年代の初めに「漫才ブーム」が起こり、芸人のあり方が大きく変化しつつあったが、それでも芸人はテレビ界の片隅に居場所を与えられた脇役にすぎなかった。

 

 テレビで中心的な存在として脚光を浴びていたのは、俳優、歌手、アイドル、スポーツ選手といった誰もが憧れるスターの面々。芸人はまだその仲間入りをできないでいた。だからこそ、若手芸人が訳知り顔の評論家たちに審査をされる、という構図の番組が成り立っていたのである。

 

 いわば、芸人たちはテレビ業界に入るための入国申請をする “難民” のような存在だった。すでに業界側にいる他業種の人間に認められなければ、テレビで活躍することを許されなかったのである。

 

 ところが、「漫才ブーム」の時期にビートたけし、明石家さんまらが出てきて、『お笑いスター誕生』からはとんねるず、ウッチャンナンチャンという新世代も現われると、少しずつ状況が変わってきた。芸人は徐々にテレビの中枢へと上りつめていった。その流れが極限まで達したところで満を持して登場したのが、ダウンタウンだった。

 

 ダウンタウンは1990年代半ばにテレビの世界を席巻し、一気にトップに立った。そして、「お笑いこそすべて」「芸人がいちばん偉い」という価値観を広めていった。松本人志がその思想を力強く書きつづった『遺書』は当時(1994年)のベストセラーになった。

 

 ダウンタウン以降に出てきた芸人の誰もが多かれ少なかれその影響を受けている。また、ダウンタウンの成功を皮切りに、吉本興業が本格的に全国区のテレビにも進出し始めた。こうして、松本はお笑い界の権威となっていった。

 

 そして、稀代のプロデューサーである島田紳助が、そんな松本を審査員として引っ張り出して始めたのが『M-1グランプリ』である。開始当初はまだ海の物とも山の物ともつかないイベントだったが、まだ現役感にあふれギラギラしている松本が若手芸人のネタを見てどういう評価をするのか、ということに注目が集まった。

 

 その意味では初期の『M-1』は漫才の大会ではなく、松本の審査を見るための大会だった、と言っても過言ではない。

 

 そして、これ以降、松本は「芸人が面白いかどうかを判断するのは芸人の仕事である」という考えに基づいた番組を次々に手がけるようになる。

 

 開始当初から一貫して芸人による審査システムが貫かれている『キングオブコント』はもちろん、芸人同士が車座になってとっておきの面白い話を披露し合う『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)、大喜利自慢の芸人たちがお互いを審査し合う『IPPONグランプリ』(同)など、松本が手がけるお笑い番組には、「芸人至上主義」が色濃く打ち出されている。

 

 現在でも、芸人以外の人が審査員を務める番組は存在する。しかし、実際のところ、人気でも面白さでも権威でも、あらゆる面で芸人が審査をするほうがシステムとして優れている以上、審査員を芸人で統一する風潮はこれからも続くだろう。

 

 情報番組のMC、コメンテーター、クイズ解答者など、テレビのあらゆる分野に芸人が進出している現在、お笑い賞レースの審査員が芸人だけで埋め尽くされるのも当然のことだ。

 

 それは、カリスマ・松本人志による「芸人革命」が完璧に成功したことを示す証しでもあるのだ。

 

文・ラリー遠田(らりー・とおだ)
作家・ライター/お笑い評論家。お笑いに関する評論、執筆、講演、イベント企画・出演などを手がける。お笑いオウンドメディア『オモプラッタ』の編集長を務める。『逆襲する山里亮太』(双葉社)など著書多数
(週刊FLASH DIAMOND 2017年11月10日増刊号)

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