中居正広のトラブルが報じられて早1カ月。事態はフジテレビ全体を巻き込む大問題へと発展している。
1月17日、元SMAPの中居正広と女性との間で起きたトラブルについて、フジテレビ社員が関与していたのではないかとの疑惑を受け、港浩一社長が緊急記者会見をおこなった。
「会見への参加はテレビ局や大手新聞社などにとどまり、ネット媒体や雑誌、フリー記者の立ち入りは認められませんでした。また、会見の内容も『第三者の弁護士を中心とした調査委員会を立ち上げる』と発表しただけで、そのほかのことはほぼ回答拒否でした。
結果として、フジテレビへの不信感はさらに強まり、トヨタ自動車や日本生命など大企業が次々とスポンサーから撤退。同局は窮地に立たされています」(芸能ジャーナリスト)
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そんなフジテレビに対し、「テレビ局として責任を取るのは不可欠」と憤るのは、元TBSアナウンサーで、エッセイストの小島慶子氏だ。
「当初は週刊誌の報道など限られた情報しかなかったこともあり、フジテレビが会見で新たにどういう内容を出してくるのかな、と関心を持っていたんです。しかし、結果的には、新情報はほとんど公開されない、透明性に欠ける会見でした。
フジテレビは説明責任を果たすべきです。被害を受けた人の訴えに対し適切に対処したのか、なぜそのようなトラブルが起きるに至ったのか、企業として人権を軽視していなかったのか。
フジテレビが第三者委員会による調査をおこない、最大限被害者を守るよう配慮しながら、真相を解明し、責任の所在をはっきりさせることを願っています」(小島氏、以下同)
1月15日には、「文春オンライン」が被害女性とは別にフジテレビの女性アナウンサーが “接待” の実態を告発した。港社長は、中居による被害者が自社の社員かどうか明言を避けたが、フジテレビがここまで厳しい批判を受けているのは、中居問題に限らず、女性アナウンサーを軽視し、“接待要員” として扱う文化があるのではないかと疑われているからだ。
元放送局アナウンサー として、小島氏は何を思うのか。
「まず大前提として、被害にあわれた方について、憶測で『あの人に違いない』とか『日常的にこんなことをされていたに違いない』と断定的にものを言うことは、結果として被害にあわれた方を追いつめ、その方の心労を増すだけです。
また、場合によっては、アナウンサーという職業への差別を助長しかねません。憶測は控えるべきでしょう。
ただ一方で、テレビ業界では、権力を握る人が立場の弱い人に対して性的な行為を強いるようなことがおそらく日常的に起きており、泣き寝入りせざるを得ない被害者がたくさんいるはずです。これは業界全体が真剣に取り組むべき深刻な課題です」
その上で、フジテレビには “独特な社風” があったと明かす。
「私がTBSに勤めていたのは1995年から2010年までですが、私が知る限り、その時代に取引先を接待する宴席の盛り上げ要員として、社内でアナウンサーを動員する習慣はありませんでした。
もし他部署の人が『今度スポンサーと飲み会があるので、人気アナウンサーを呼びたいのだが』などと言ったら、『それはアナウンサーの仕事ではありません!』とアナウンス部が怒るような風土でした。
一方、フジテレビについては、私が個人的に交流のあった人たちとの会話だけでうかがい知れる範囲ですが、社員同士の仲がいいというか、他部署とアナウンス部の垣根が低い印象でした。
そうしたなかで、タレントやクライアントを接待する飲みの席にアナウンサーが出席することについて、『広く考えれば業務のうちだよね』という考え方に、あまり抵抗を持たない人が多かっただろうと思います。
とはいえ、そうした宴席があったとしても仕事の接待ですから、性的なサービスの強制とはまったくの別問題ですが……」
そのうえで、中居とフジテレビをめぐる一連の騒動の背景に、女性アナウンサーのことを “女子アナ” として性的に消費する深刻な社会的背景があると指摘する。
「私は10年以上前から言い続けているのですが、『女子アナ』という役割自体、絶滅すればいいと思っているんです。
『女子アナ』とは、1980年代末以降にフジテレビをはじめとしたテレビ局が “女子アナブーム” を打ち出した際に、テレビ局社内で使われていた呼び名が男性向け週刊誌などを通じて世に広まったものだそうです。
そもそも『女子アナ』という呼称には女性蔑視的な眼差しが含まれており、アナウンサーという職業に就いている女性に対する敬意が感じられません」
そして、あらゆるメディアが “女子アナブーム” をこぞって盛り上げた。
「1980年代の終わりから1990年代、そして今につながる “女子アナブーム” の影響は深刻です。女性アナウンサーがアイドル化され、写真週刊誌やスポーツ紙などがそれを性的に消費するという大きなマーケットが生まれたのです。
若い女性アナたちの私生活や下着の盗撮写真、根も葉もない噂話を人々が好んで消費するようになりました。『女子アナ』と書けば記事が読まれ、雑誌が売れ、番組がよく見られる。人々が思い浮かべる女性アナ像は、そうしたメディアの影響を受けています。
女性アナを商品化したメディアだけでなく、日本で暮らしている人の多くが、無自覚にこのマーケットに加担しているはずです。みなさんも『女子アナ』の記事はよく読むでしょう? 人には言わないかもしれませんが。
多くの人が『女子アナ』のことが大好きで、それでいて大嫌いじゃないですか。
たとえば若い女性が就職を考えるとき、高待遇の大手放送局のアナウンサーになれたらいいなと思う反面、『女子アナ』になる子ってきっと性格が悪くってあざといんだろうな、という偏見も持ってしまっていますよね」
小島氏は、こうした過度に商品化された局アナという存在そのものを「なくしたほうがいい」と考えている。
「局アナってすごく不思議な職業で、海外の人に日本のアナウンサーって仕事を説明するのはとても難しいんですよ。多くの国では、ニュース番組のキャスターをやる人は、経験を積んだ記者です。
日本では放送局の社員アナウンサーがニュースも読むし、バラエティ番組でタレントさんと同じ仕事もするし、朗読の仕事もする。出演業務ならなんでもするのが局アナです。テレビ局は、番組予算に出演料を計上しなくていい、“タダで使える専属タレント” として便利に使ってきたわけです。
スポーツ実況は職人技ですが、それ以外のアナウンサーは、報道の仕事では上手にニュースが読めるように努力し、バラエティーの仕事では番組を盛り上げられるようタレントさん顔負けの機転を利かせてと、出演業務のゼネラリストとして頑張るわけです。
ところが、社風にもよりますが、アナウンサーは社内では『所詮はテレビに出るだけの人たち』として、記者より一段低く見られることもあるのです。放送は出演者がいなくては成り立たないのに、アナウンサーは決して社内で地位が高いわけではない。
でも実際、基礎から経験を積んだジャーナリストでもなければ、厳しい競争を勝ち抜いたエンタテイナーでもなくて、やたら滑舌がいい “出演のプロである会社員” というすごく不思議な職業なのです。
そうした曖昧な立ち位置は、社内で『だったら得意先との宴会にも来てよ』とか『画面に出たいんだったら文句を言うな』と言われやすい立場でもあります。
ことに若い女性は、画面の “華やぎ要員” という扱われ方をします。女性アナは男性アナと比べて、長く活躍できる機会がきわめて限られています。私はもう従来型の “何でもできる画面の華” としての局アナの役割は、終わりにするべきだと思っています」
報道、バラエティ番組では、それぞれプロが活躍すべきであると続ける。
「予定どおりに原稿を読み上げるだけなら、今はAIでできます。テレビ朝日ではAI局アナの運用が始まっていますし、NHKでもAI音声のニュースが流れていますよね。人件費削減やリスク管理の観点からも、今後その役割は大きくなっていくでしょう。
報道番組のキャスターは、記者として経験を積んでいる人のなかから、ふさわしい人を起用すべきです。視聴率や話題性を見込んで、アイドル的なアナウンサーやタレントさんをニュースキャスターに起用する慣例がありますが、その人たちは白髪やシワを刻む年齢まで活躍できているでしょうか。
長寿番組でもなぜか女性キャスターだけが交代して “新陳代謝” されるのが通例ですよね。そういう性差別的な起用をやめて、女性が安心して専門的な経験を積み、長く活躍できるようにするべきです。
バラエティ番組についても、アナウンサーと同じように時間管理や進行がこなせるタレントさんはたくさんいます。視聴者は、出演者が放送局の社員であることに親近感を覚えるのかもしれませんが、従来のように若い女性局アナを次々と消費するような起用はやめるべきです」
テレビの世界そのものが、変革を迫られている。
「NHK放送文化研究所が公開しているテレビのジェンダーバランスに関する調査が、日本のテレビ業界の偏りを端的に示しています。
2021年におこなわれた調査によると、テレビ出演者全体のおよそ6割が男性。年代別に見ると10代、20代の出演者は女性のほうが男性よりも多く、その職業はアナウンサー・キャスター・リポーター、タレント・モデル。
ところが、30代になると女性出演者は大きく減り、男性が女性を上回ります。40代になると圧倒的に男性出演者が多くなり、職業はお笑い芸人、司会者、文化人など。
“熟年男性と若い女性” という組み合わせは画面でお馴染みですよね。 男性は中年以降も画面に出続けられるけれど、女性出演者の数は30代以降、急激に減少していくのです。
この調査からわかるように、テレビで起用される女性は圧倒的に若い人が多く、加齢とともに起用される機会が減っていきます。見慣れている画面はテレビ業界が女性をどのように扱っているかの表れでもあり、私たちはそれを日々 “学習” しています。
今回多くの憶測がネット上にあふれていますが、そこには “女子アナ” に対する偏見や決めつけが表れています。それはこの社会が女性に向けてきた眼差しそのものでもあるのです。
フジテレビが世に広め、今まで私たちが見慣れてきた “女子アナ” という役割は、もうなくしたほうがいい。今回の一件で改めて確信しました」
はたしてフジテレビが決断を下せるのかどうかーー。