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コロナ感染船で何が起きていたのか、厚労副大臣が明かす最前線

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.05.02 20:07 最終更新日:2020.05.02 20:11

コロナ感染船で何が起きていたのか、厚労副大臣が明かす最前線

横浜港に停泊中のダイヤモンド・プリンセス号(写真:AP/アフロ)

 

 国立国際医療研究センターが発行している「Global Health & Medicine」に、4月29日、ダイヤモンド・プリンセス号に関連する論文が英文で掲載された。

 

「ウイルスが蔓延したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号での挑戦:実際の話(Challenges of COVID-19 outbreak on the cruise ship Diamond Princess docked at Yokohama, Japan: a real-world story)」というタイトルで、著者は橋本岳 ・厚生労働副大臣と自見英子・政務官である。横浜港に停泊中、コロナウイルスが蔓延した船内で起きたことが時系列で書かれている。

 

 

 中国以外で最大のクラスター発生として世界中の注目を浴び、連日報道されていたダイヤモンド・プリンセス号だが、船内で奮闘していた政治家の言葉は、これまであまり報道されてこなかった。

 

 論文によると、1月25日に香港で下船した乗客が2月1日に新型コロナウイルス陽性と判明、政府へは2日に知らされた。船は3日の夕方に横浜港へ到着。その夜、乗船者全員の健康診断をおこなったところ、乗客264名、乗員9名の273名に症状あるいは濃厚接触を確認した。

 

 PCRテストは、検査所の処理能力の問題で、数段階に分けて結果が伝えられた。最初の検査で明らかにアウトブレイクが認められたため、「即時下船」と「船上隔離」が考慮された。当時、船には2666名の乗客と1045名の乗員、合計3711名が乗船している。

 

 輸送機関の問題などで、感染対策は船上で収めることが決まった。同時に、乗員・乗客の健康や食事、衛生管理などをおこなわなくてはならない。廃棄物の処理だけでも多大な労力を必要とする。船には隔離用スタッフが派遣された。

 

 乗客は57の国や地域からで、平均年齢は66歳という高齢。複数の持病を持つ人もいる。船籍はイギリス、運営会社はアメリカ、日本政府だけでなく、神奈川県など地方自治体の指揮系統も存在し、事態は複雑な様相を呈する。

 

 最後の1人が下船するまでの基本方針は、以下の3つだった。

 

(1)乗船者から1人の死者も出さない
(2)感染を制御するシステムを早急に作り出し実行する
(3)乗員・乗客の健康を維持し、不安を和らげる

 

 この原則のもと、政府はいくつかの政策を決めた。
 まず、死者ゼロの原則に基づき、陽性患者は病院へ搬送され、高齢者や合併症などリスクの高いおよそ200名も下船させた。

 

 2月5日、最初の検査結果が判明。31人中10名が陽性、隔離作業が開始される。7日、273人中61名(乗客60名、乗員1名)が陽性となった。この日から全員に体温計が配られ、検温を毎日実施、必要に応じてPCR検査もおこなわれた。

 

 乗員は感染を防止しながら乗客の日常をサポートしたが、症状があり検査結果を待っている人や濃厚接触者は仕事をやめ、自室で隔離された。

 

 船内では、マスクの装着を強く求め、定期的な手洗いを促す感染防止のガイダンスが何度も乗員・乗客に配布された。持病のある人には薬が提供され、不眠や不安などメンタル面もサポートされた。通信環境を整えるため、携帯の基地局やWi-Fiルーターが増強され、政府のお金で2000台のiPhoneが配られた。

 

 2月7日から24日までに712名の新型コロナ患者が出た。下船の条件は3つ(14日間の経過観察・PCR検査の陰性・医師による診断)で、問題ないとされた乗客が順次下船した。

 

 この論文にはNIID(国立感染症研究所)の見解が載っている。
 当初2日間、全員の体温データがなく、PCR検査が少なかったことを踏まえたうえで、「大規模な感染は船の隔離が始まるより前に始まっていた」とされ、船内隔離は効果があったとしている。この論文と同時に公表された別の論文でも、船上隔離が功を奏したとのコメントがある。

 

 アメリカの『WIRED』は3月30日、「東京湾での27日間」というタイトルで、ダイヤモンド・プリンセス号で起きたことをまとめた長文の記事を出している。

 

 この記事で、横浜港に到着した際、日本政府が「停泊した状態で隔離」という苦渋の決断をしたいきさつをアルマ船長が明かしている。上陸するということは、誰も免疫を持たないウイルスを日本に撒き散らすことになりかねないし、健康状態のわからない人を本国に送ることもできない。そして、乗船者全員を隔離できる施設は日本にはなかった。

 

 船の運営会社は難色を示したが、CDC(米疾病予防管理センター)は、人々をキャビン内に滞在させることが、感染を防ぐ最善策だと判断したそうだ。

 

 当時ダイヤモンド・プリンセス号は、外国メディアからまるで菌の温床のように叩かれていたが、ある乗組員は「あの状況下で、日本政府は当時としてのベストを尽くした」とコメントしている。世界がウイルスの脅威を知った今、メディアはもう一度、船内で起きたことを検証すべきなのかもしれない。(取材・文/白戸京子)

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