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中国200万人の「サイバー監視員」が仕掛けるSNS情報戦

社会・政治 投稿日:2020.05.06 16:00FLASH編集部

中国200万人の「サイバー監視員」が仕掛けるSNS情報戦

 

 2013年、中国共産党中央宣伝部の責任者が、にわかには信じがたい数字を発表した。北京だけで、なんと200万人以上もの監視員が「微博」などのSNSやネット上の書きこみをチェックしているというのだ。もちろん人口14億人の国だけに検閲のための人員がこれだけいても不思議ではないが、驚くべき数だ。

 

 NYタイムズは、そのうちの1人にインタビューすることに成功した(2019年1月2日 “Learning China’s Forbidden History, So They Can Censor It”)。その人は、北京にあるBeyondsoft(博彦科技)というIT企業でパートタイマーとして働いている。Beyondsoftは中国政府の下請けとして仕事をする検閲専門会社だ。

 

 

 検閲の従事者たちは、職場に自分のスマートフォンをもちこむことが禁止される。入り口を通るとロッカーがあり、私物はそこにしまわなければならない。スマートフォンのカメラ機能で、内部の写真を撮られることを阻止するためだ。中で何が行なわれているのか、写真や動画による情報は外部に漏れない。まるで病原菌やウイルスの流出を防ぐように慎重に情報保全に努める。

 

 今の若い世代には、1989年6月4日に起きた天安門事件についてまったく知らない人もいる。「天安門」「六四」といったキーワードが要注意であることなどを研修で学びながら、人海戦術によってどんどん検閲を進めていく。勤務時間は1日6時間あり、1カ月350ドル(3万8000円)から500ドル(5万4700円)の賃金が支払われるそうだ。

 

 シフトは交替制で途切れなく組まれ、ネット上は常に監視されている。問題がある書きこみを見つけたときには、アプリやソーシャル・メディアを運営しているアリババ(Alibaba=阿里巴巴)やテンセント(Tencent=騰訊)といった会社に通報する。通報を受けた運営会社は、1時間以内に削除しなければならない。削除が遅れて書きこみが野放しにされると、当局から処罰を受ける。

 

 Beyondsoftはデータベースを作って運営している。同社のウェブサイトによると、使用が許されないNGワードは10万個もある。さらに別の300万個の言葉について、「もしかしたら変な意味があるかもしれない」と目を光らせている。たとえば「クマさん」とか「クマ」だ。2013年3月に習近平が国家主席に就任すると、外見が「くまのプーさん」に似ていることが中国のネット上で話題になった。それ以来、中国で「プーさん」に触れるのはタブーとされている。

 

 単に動物のクマを指しているだけかもしれないが、使い方によっては政治的意味をもたせることもできる。疑いの目をもって、あやしい言葉を見つけ次第、要注意リストのデータベースに加えているのだ。ポルノや売春、ギャンブルやナイフ(武器)に関連する投稿もチェックされる。さすがに人間の目でこれだけ膨大な情報をすべてチェックすることはできない。だから、コンピュータソフトやAIを駆使して、キーワードやシンボル、問題になりそうな画像や動画を探していく。

 

 Beyondsoftのような会社がやる仕事は、当局が表に出してほしくない情報を消すことばかりではない。ソーシャル・メディアを活用して自ら積極的に新しい投稿を行ない、世論を誘導する。情報操作も彼らの重要な仕事の一部だ。

 

 人間というのは「みんなはこう考えているのだな」と思うと、つい他人の意見に引きずられ、従ってしまう。だからソーシャル・メディアは、世論操作に絶好の道具だ。SNSを使った中国政府の画策を、私は身近で感じたことがある。2019年、私は自分のツイッターのアカウント(@martfack)を使って、香港で続く反政府デモの動画や情報、ニュースを発信し始めた。すると急に、ネット右翼のような人たちからの批判がドッと押し寄せたのだ。

 

 それらのアカウントの書きこみをさかのぼり、よく見てみると、日本語で書かれていてネット右翼っぽくはある。だがなぜか香港の反政府デモをまったく応援せず、中国政府の立場を守るものがほとんどなのだ。「なぜネット右翼が中国政府の立場を支持するのだろう。これは本当に日本人が作ったアカウントなのか」と怪しく思った。

 

 おそらく中国政府の指示によって、ネット右翼の真似をした日本語のアカウントが作られているのだろう。SNSでフェイクニュースや扇情的なメッセージを流し、見ている人に「えっ、何これ?」と混乱を起こすことが彼らの目的なのだ。

 

 

 以上、マーティン・ファクラー氏の新刊『フェイクニュース時代を生き抜く データ・リテラシー』(光文社新書)をもとに再構成しました。NYタイムズ元東京支局長が、スマホの無料アプリや左右両方の意見を読む方法など、誰もが今すぐできる情報収集を手ほどきします。

 

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