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外務省ではどんな語学研修がおこなわれているのか

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.06.08 16:00 最終更新日:2020.06.08 16:00

外務省ではどんな語学研修がおこなわれているのか

 

 外務省の職員研修には具体的にどのようなプログラムが用意されているのだろうか。

 

 外務省研修所研修規則第1条には、研修区分として第1部〜第6部が列挙されている。そのうち、第1部研修は、課長相当職以上の外務職員に対する研修を行うこととなっている。第2部〜第4部研修は、外務省が新規に採用する職員の研修である。これは、総合職職員(第2部研修)、専門職職員(第3部研修)および一般職職員(第4部研修)に分かれる。

 

 

 第2部研修については、国家公務員採用総合職試験合格者(毎年約25〜30名)を対象に、語学研修および外務講義等を実施する。入省直後の本省実務あるいは将来の在外公館勤務に当たっての基本的な心構えや知識、語学等を習得するための前期研修(4月〜5月中旬)、本省で配属される各課室での実務を経験しながら週2回語学授業を受講する中期研修(5月〜翌々年3月)、そして、在外研修に出る直前の最後の集中的な研修である後期研修(翌々年4月〜6月)という3段階の国内研修を合計約2年3ヶ月行う。

 

 国内研修を終了した後、入省3年目の夏より語学によって2年ないし3年の在外研修のため海外赴任する。在外研修の部分は、以下に述べる各部在外研修を含め人事課が実施している。研修先は主に各国の大学・大学院である。

 

 研修語は、英、仏、独、西、露、中、アラビア語であり、年により韓国語、葡語が加わる。通常、在外研修は2年間であるが、露、中、韓、アラビア語、葡語の在外研修は3年間と通常より1年長く、米英での1年間の研修を含む。

 

 ちなみに、総合職試験合格採用者(第2部)および次に述べる専門職試験合格採用者(第3部)につき、若い時期に毎年70〜80名程度全員を海外の大学等に2〜3年長期留学させる制度を持つのは日本の外務省くらいであろう。この制度の持つ中長期的な意義は極めて高いものがある。

 

 第3部研修については、外務省専門職員採用試験合格者(毎年約50名)を対象に、第2部と同様の語学研修および外務講義等を実施する。第2部研修員と異なる主要な点は、国内研修が1年短いということと研修語学がより専門化しているということである。後期研修を入省翌年4月〜6月に行い、約1年3ヶ月の国内研修を行って後、入省2年目の夏より2年(アラビア語の場合は3年)の在外研修を行う。

 

 研修先は第2部研修員と同様、主に各国の大学・大学院である。入省2年目に在外研修に出る理由は、専門職職員の場合には、特殊語学研修者も多く、早い段階で在外研修を行う方が語学習得の観点から効果的であろうとの判断からである。第3部研修員の研修語は、約40言語の中から指定される。

 

 具体的には、英、仏、独、西、露、中、韓、葡、インドネシア、タイ、モンゴル、マレー、ペルシャ、ウルドゥー、ヒンディー、シンハラ、ミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナム、ベンガル、フィリピノ、伊、ギリシャ、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ハンガリー、フィンランド、ルーマニア、ポーランド、ブルガリア、チェコ、スロバキア、オランダ、セルビア、クロアチア、トルコ、カザフ、ヘブライ、スワヒリ、ウクライナ、アラビア等の各研修語であり、その時々の国際情勢の変化も踏まえて具体的な研修語が決定される。

 

 したがって、研修員の中には、大学時代に専攻で学んだ外国語を指定される場合もあれば、まったく初めての外国語の研修を命ぜられる場合もある。

 

 なお、第2部・第3部研修の一環として、既述の通り、採用試験制度の変更により、入省前に必ずしも全員が十分学習しているとは限らない国際法や外交史、経済学、憲法の外務講義を従来以上に強化している。例えば国際法については、第2部・第3部研修員ともに、前期研修で学者からの集中講義を受けるとともに、入省年の夏の1週間、研修所で本省国際法局実務担当者から集中講義を受ける。

 

 また、在外研修前年の夏、第2部・第3部英語研修員は翌年の英米の大学院等での在外研修のためのエッセー文や願書作成、TOEFL・IELTS・GRE等の試験対策等出願準備のための英語集中研修を約2週間(40時限)、研修所で受講する。

 

 筆者が研修所長として関わった平成最後の第2部・第3部前期研修および後期研修を例に挙げて研修の大枠を説明すると、次の通りである。研修の1時限は原則80分で、通常1日の研修は朝9時半に開始し、午前2時限、午後3時限である。第5時限が終了するのが17時50分である。収容人員の関係で約80名が合宿棟で生活し、その他の研修員は自宅通勤であった。

 

 

 以上、片山和之氏の新刊『歴史秘話 外務省研修所〜知られざる歩みと実態〜』(光文社新書)をもとに再構成しました。1946年3月1日、日本が主権を喪失し、外交機能も停止され、外務省が機構を縮小し、東京が焼け野原という極めて厳しい状況の中で設立された外務省研修所の歴史を振り返ります。

 

■『外務省研修所』詳細はこちら

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