新型コロナウイルスのパンデミックのなかで、アメリカは卒業式シーズンを迎えている。
典型的な卒業式は、『威風堂々』の音楽に合わせてガウンを来た学生たちが入場し、学生代表やゲストのスピーチの後、それぞれがステージを歩いて卒業証書を受け取り、式の終了後に帽子を空高く投げるというものだ。
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だが、多くの学校で卒業式がなくなり、プロムと呼ばれるフォーマルなダンスパーティーも中止を余儀なくされた。卒業間近の高校生にとっては大イベントで、失望の声が広がっている。
もちろん、各学校は、それぞれ知恵を絞った独自のスタイルで卒業生たちを祝っている。一人一人生徒を学校に呼び、ステージを歩いてもらい卒業証書を手渡し、後からビデオ編集してまとめる学校や、ドライブスルー方式で卒業証書を手渡す学校、あるいは学校関係者が生徒一人一人の家を回って記念品を渡すところもある。
インディアナポリスのサーキットそばにある高校は、卒業生が個人の車でサーキットを走ってゴールし、卒業証書をもらった。
筆者の住むシリコンバレーでは、オンライン式典のあと、卒業生たちが車で街中をパレードした。市内に広がる4つの高校を回るかなり広いルートを、思い思いに飾りつけた車が走り、沿道には住民たちが出て楽器や拍手などで祝っていた。
だが、卒業式をおこなった学校のほうが珍しい。多くの卒業生は、人生の節目となるイベントがなくなってしまった。そこで、今年はメディアや企業が大規模な卒業記念プログラムを提供している。どのプログラムも、超豪華なアーティストや著名人が出演し、卒業生を盛り上げるのが特徴だ。
5月15日にはインスタグラムとその親会社であるフェイスブックが、リモート卒業式イベント「Graduation 2020」を開催。
5月16日には、ABC、CBS、FOX、NBCのキー局が合同で『Graduate Together 2020』を開催し、卒業生が事前に申し込むと、自分の名前や写真を番組のどこかに入れてもらえるチャンスもあった。
さらに、6月7日にはYouTubeチャンネルが「Dear Class of 2020」と題して番組を配信。オープニングはグラミー歌手のリゾがフルートでニューヨークフィルとともに『威風堂々』を演奏、ビヨンセらのあいさつに続き、テイラー・スウィフト、ジェニファー・ロペス、マライア・キャリー、レディ・ガガなど有名アーティストたちが次々に登場した。
スピーチでは、「世界中で起きている変化に負けず、アクティブに活動して、社会を変えていこう」という内容が多かったが、抗議デモに触れたものもあった。レディ・ガガは、当初新型コロナに関するスピーチを用意したが、デモの盛り上がりを受けて、人種差別に触れたものに修正した。
こうしたイベントの多くに、オバマ元大統領が登場している。これには理由があって、ある1人の高校卒業生が「オバマ氏にスピーチしてもらえないかなぁ」とSNSでつぶやいたのをきっかけに、瞬く間に#ObamaCommencement2020(2020年の卒業演説をオバマに)というハッシュタグが広がったのだ。
先のYouTubeチャンネルのメインスピーチもオバマ氏が担当した。
「若者には突然に思えたかもしれないが、いま起きている急激な変化は昔からあった不条理が表面に出てきたものだ。でも、平和的におこなわれているデモを見て、若い世代が希望を持つ限り、うまく世の中を変えていくだろうと楽観視している。
アメリカは常に変わり続けている。テクノロジーやSNSを賢く使い、投票し、抗議しよう。卒業おめでとう。これからも意味のある行動をして、君たちを誇りだと思わせてくれ」
こうしたメッセージに、SNSでは感謝の投稿が数多くあふれていた。その一方、トランプ大統領の娘、イヴァンカ・トランプは、予定されていた大学でのスピーチをキャンセルされた。これは世界に広がる抗議デモの影響だと報道されている。(取材・文/白戸京子)