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都知事選の「謎」事件/立候補したのは死人だった!
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.06.29 11:00 最終更新日:2020.06.29 11:00
東京都知事選が7月5日におこなわれる。過去最多となる22人が立候補しており、各地での街頭演説も盛んになってきた。
第1回都知事選は1947年だ。すでに70年以上続いているだけに、歴史を振り返ると、珍事件も起きている。選挙マニア作家の宮澤暁さんが、「かつて、死人が立候補したことがある」と教えてくれた。
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時は1963年。立候補届出期間の最終日、選挙管理委員会に「橋本勝」という人物がやってきた。必要な書類をすべて提出し、正常に受理され、候補者一覧にも名前が掲載された。
「選挙管理委員会は、立候補の資格があるか判断するため、書類を審査しなければなりません。そこで、橋本の戸籍確認のため、本籍地の大阪市福島区に連絡したところ、なんと『すでに死亡している』と返ってきたんです」
当時、都知事選の時期は4月。しかし、区役所からの返事は「橋本勝は2月17日に死亡している」というものだった。
「橋本勝」と名乗る人物は、自分で歩いて来て、書類も提出している。狐につままれたかような話だが、ほかにも橋本氏には謎が多かった。
「死んでいる人物という時点で強烈ですが、彼が打ち出した公約も、かなりとんでもないものでした。
彼は青少年の非行防止・エネルギー発散を目的として、『女性の人造人間を大量に作る』と発表したんです。具体的に言えばダッチワイフ。『きわめて精巧なダッチワイフを作るツテを知っているから』と主張していたことが記録に残っています。
数万体のダッチワイフを公設の特殊慰安所に配置し、エネルギーの発散場所にするとして、当時はずいぶん話題を呼んだようです」
橋本(と主張する人物)に所属政党はなかった。ただ、この時期、選挙を利用して金儲けする集団がいて、橋本はその一派に属していたのではないかと噂された。
「この都知事選では、自民党など保守勢力が支援する現職の東竜太郎氏と、社会党や共産党など革新勢力が支援する阪本勝氏がツートップで争っていたんです。
翌年にオリンピックを控えていて、前回の知事選では保守勢力と革新勢力の差が小さかったこともあり、自民党は特に力を入れていました。
それもあって、阪本氏に対する選挙妨害が続出した。橋本勝の立候補も、似た名前で有権者をかく乱させる選挙妨害だったのではないかと囁かれています」
本来であれば候補者一覧から真っ先に名前を削除すべきところだが、そこには法律の問題があった。
「当時の法律だと、こういった人物の立候補を却下する規定がなかったんです。法律を作る側も、まさか戸籍上死んでいる人間が立候補してくるなんて想定できないですから(笑)。
選管としては、2択しかないわけです。戸籍上死亡扱いになっていることが間違いで、行政訴訟をやって死亡を撤回してもらうか、彼にこの戸籍は間違いで別の戸籍があることを認めさせるか。
記録を見ると、実際にはどちらもおこなわれず、彼に投票された票はすべて無効票として取り扱われました」
結果から言えば、橋本勝の得票数は0票となった。とはいえ、都知事選が終わったから一件落着……とは当然いかなかった。
「都知事選後、戸籍の『橋本勝』と候補者の『橋本勝』は別人であると判断され、橋本は選挙違反で逮捕されました。ただ、罪状は他人の戸籍で立候補したことではなく、居住地の選挙人名簿に登録されている『橋本勝』と偽って投票しようとした、詐欺投票の容疑です。
しかし、裁判で身元がわかるかと思いきや、結局、橋本勝の身元はわかりませんでした。判決は禁固1年でしたが、出所後にどんな生活をしていたかも記録に残っていない。初めから終わりまで、なんとも不思議な事件だったとしか言いようがありません」
●宮澤暁
選挙関係の変わった事件を中心に調査をしている選挙マニア。変わった選挙事件を紹介した『ヤバい選挙』(新潮社)発売中