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【日本の潜水艦】(1)魚雷と一緒に寝る乗組員もいる緊張の現場

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.08.15 18:00 最終更新日:2016.11.30 22:07

【日本の潜水艦】(1)魚雷と一緒に寝る乗組員もいる緊張の現場

 

 北朝鮮が大型の核ミサイル潜水艦を建造するなど、現在、潜水艦は特に重要な兵器となっている。日本の潜水艦運用と製造現場の問題点を、防衛ジャーナリストの桜林美佐氏が追う。

 

 

「可愛い魚雷と一緒に積んだ、青いバナナも黄色く熟れた。男所帯は気ままなものよ、ひげも生えます無精ひげ」

 

 潜水艦乗りであれば誰もが歌える曲『轟沈』。海上自衛官のなかでも寡黙な印象を受ける潜水艦職種であるが、この歌をみんなで肩を組んで合唱するときばかりは、全身で大きな声を張り上げる。

 

 それもそのはず、任務中の彼らにはとにかく制約が多い。物音のしない海中を潜行するだけに、艦内では足音をたてることは厳禁である。艦内で大きな声でしゃべるなどもってのほか。無音潜航ともなればトイレの使用もできない。

 

「沈黙する」のは艦内だけではない。家族にも彼女にも「どこに行くか、いつ帰るか」など、相手がもっとも聞きたいことを教えることができないのである。

 

『轟沈』のレコードが発売されたのは1944年(昭和19年)であるが、この歌詞にある艦内の様子は、今もほとんど変わらない。

 

 しかし、地上での生活はガラリと変わった。物心ついたときから携帯やメールが当たり前のようにあり、個室で育ったような世代にとって、地上が便利になればなるほど潜水艦は辛い勤務になる。それが士気にどう影響するのか……そんなことを思いつつ、今回は潜水艦「おやしお」に搭乗し、内部を案内してもらった。

 

 ハッチを降りると、潜水艦独特の世界がそこにある。巨大な護衛艦とは違い、とにかく狭い。それゆえ、艦長以下、総員が非常に身近な関係となる。密封された狭い艦内に人がひしめきあっているせいだろう、私は「なんだか頭がボーッとしてきました」とつい口に出してしまった。

 

 すると、隊員が「慣れてないから空気が薄く感じるのかもしれません。私たちも長い行動中は同じように感じることがあります」と答えてくれた。 「おやしお」艦長に艦内生活について聞いてみた。

 

「乗員は今、80名ほどいます。3直といって1日24時間を3人交代でまわすのです。当直は1人で担い、予備はいませんので、責任は重大です」

 

 3直の体制は午前0時〜6時、6時〜12時、12時〜18時、18時〜24時となっている。港から離れれば、24時間態勢で潜望鏡を覗きつづけなければならない。潜行中は昼夜の境がわからなくなるため、夜の艦内は赤いランプで灯される。

 

 時間ばかりか、曜日もわからなくなるが、カレーが出れば金曜日である。「潜水艦のカレーはとくに美味しい」という噂も聞く。その理由をかつて海上自衛隊の広報担当者に聞いたことがある。

 

「どんな艦艇もそうですが、とくに制限の多い潜水艦では食事がいちばんの楽しみですからね。これはあくまで噂ですが、評判のいい給養員(調理師)は潜水艦にスカウトされるなんて話も聞いたことがありますよ」

 

 食事は1日4食出るが、最近は「メタボ対策」ということで、1食はパスする乗員も少なくないようだ。艦内では酸素も薄くなるため、運動がほとんどできないからだ。トレーニングマシンも若干はあるが、余暇時間はもっぱらDVD鑑賞(ヘッドホンで音を出さずに)か、トランプをしているとのことだった。

 

 それにしても、艦内に個人スペースはあるのだろうか。艦長が苦笑する。

 

「トイレ…くらいでしょうか。しかし、狭すぎて中で向きを変えることもできません。あと、強いていえばそれぞれのベッドですね。しかし、そこも3段になっていて頭がつかえるような限られた空間です」

 

●あふれでた隊員が、魚雷と一緒に睡眠を

 

 2010年の「防衛計画の大綱」で、潜水艦は従来の16隻から22隻体制となり、現在、要員を増やしている。そのため「おやしお」にも約70人の定員を超える隊員が乗っている。居住区に入りきらないから、あふれた隊員は発射管室に設置されているベッドで魚雷と一緒に寝ているという。

 

 このように海上自衛隊の潜水艦乗りたちは、“自我”を捨て、まさに艦と一体となって任務をこなしている。最近、この日本の潜水艦と運用ノウハウに対し、海外から熱い視線が注がれている。たとえば、オーストラリア海軍からは「そうりゅう」型の推進機関などに関する技術提供を求める声が寄せられていた。

 

 ほかにも、中国の海洋進出を受け、東南アジア諸国は海軍力増強を図っており、同地域に詳しい研究者は「日本の優れた技術と高い運用能力を欲しがっている国は多い」と指摘する。

 

 戦前は潜水艦をタイへ輸出していた日本だが、今は「武器輸出3原則」があり、また潜水艦という秘密の塊だけに、輸出のハードルは高い。

 

 これまでどちらかというと、わが国の潜水艦については、「日本では原子力潜水艦を保有できない」といったネガティブな見解を示す向きが多かったが、世界から見れば垂涎(すいぜん)の的なのだ。

 

 日本の優位性はAⅠP機関(大気非依存型動力機関)が筆頭にあげられる。2009年就役の「そうりゅう」型潜水艦から運用されているAⅠPは、潜水艦に液体酸素を蓄え、大気がない海中でもエンジンを運転して発電できる。

 

 従来だと、海面上に吸気口を出して空気を吸い込み、海中に排気ガスを放出することでディーゼルエンジンを運転していた。この際に発見されやすいという問題点があったのだが、大気に依存しないスターリングエンジンAⅠP発電システムによって、水中航続性能が大幅に向上した。

 

「そうりゅう」型のスターリングエンジンは、スウェーデンのコックムス社製を川崎重工業がライセンス国産し、日本独自のシステムにしたものである。

 

 次回は、この潜水艦の製造現場の秘密に迫る。

 

(週刊FLASH 2013年10月1日号)

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