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スパコン「富岳」で予測可能になった「南海トラフ地震」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.07.03 06:00 最終更新日:2020.07.03 06:00
「資金が豊富な米国や中国と違い、日本の予算では、10年に1台のペースでしかスパコンの開発はできません。その制約のなかで1位、しかも四冠を達成したのは快挙。『日本の技術は遅れている』といわれるなか、おくれをとってないことを示してくれました」(科学ジャーナリスト・寺門和夫氏)
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理化学研究所が富士通と共同で開発したスーパーコンピュータ「富岳」が、演算速度を競う世界ランキングで1位を獲得。先代の「京」以来、8年半ぶりに世界1位を奪還した。
さらに、産業利用などの処理能力を競う「HPCG」、人工知能(AI)で活用される性能を競う「HPL-AI」、ビッグデータを処理する性能を競う「グラフ500」でも1位に。四冠を達成したのは、世界初だ。
一方、消費電力性能では、汎用性を高めたため世界4位。それでも、上位のマシンと比べて遜色ない消費電力性能を持ち、「富岳」の総合力の高さも見せつけた。
「2位じゃ、ダメなんでしょうか?」
2009年の事業仕分けでの蓮舫参議院議員の発言を受け、日本のスパコンは、処理スピードだけでなく、使いやすさを求める方向へと舵を切った。「富岳」は富士山の異名で、裾野を広く、社会的課題の解決に役立てる意味もこめられている。
「すでに『富岳』の利用が始まっている新型コロナ対策のシミュレーションだけでなく、アルツハイマー病に有効な新薬の開発にも活用できます。新型バッテリーの開発や防災分野、宇宙の謎の解明まで活用できる裾野は広い。
また、ゲリラ豪雨など局地的・突発的な現象予測や、市区町村単位の気象予測ができます」(寺門氏)
さらに、従来は難しいとされた地震予測も可能になるという。2021年度から「富岳」を運用する、地震津波予測研究開発センター(海洋研究開発機構)の堀高峰センター長が言う。
「まず、地震予測に必要な過去の地震データを、より明確に分析できるようになります。それにより、巨大地震の発生が危惧される南海トラフ周辺で起きた小さな地震が、プレート本体と関係ある地震なのか、まったく関係ない地震なのかを区別でき、危険な場所を特定できるようになります」
海洋機構では、海洋調査船や有人・無人探査機を用い、南海トラフ周辺の海底下の構造や、陸のプレートが引きずられることで地殻に溜まる「ひずみ」を把握。さらに、紀伊半島から四国沖の海底に地震計や水圧計を設置し、それをケーブルでつないだ観測網「DONET」で観測してきた。
「これまで利用してきたスパコンの解析能力に制約があり、海底下の構造を単純化して、地表も平面として把握するような単純なモデルしか計算できなかった。
『富岳』の解析能力があれば、過去の地震情報と海底下の構造、ひずみの溜まり具合を組み合わせて分析でき、数ヶ月から1年後以内に、巨大地震が起こる可能性を予測できます。
また地震が起きた場合、どの場所の被害が大きくなるかを詳細にシミュレーションできるので、地震直後の対策も立てやすくなるでしょう」(掘氏)
これらは「富岳」の、「HPCG」の能力の恩恵だという。
「蓮舫さんの発言から、使いやすいスパコンを作る方向に、日本全体が変わりました。ありがたいことなんですが、プレッシャーでもあるんです。『世界一のスパコンで、こんな予測しかできないの?』と言われないよう、今度は使う側が頑張らないと」(堀氏)
“最後っ屁” にさせないためにも、今度は使い方でも1位を目指す。
写真提供・理化学研究所
(週刊FLASH 2020年7月14日号)