●“老舗大企業” 自民党と、“異世界” 国会のルールに悪戦苦闘
困難を乗り越えて参議院議員になったあとも、“異世界状態” は続いた。
「まわりの先輩方は『民間出身の強みを活かして、ぜひ活躍してもらいたい』と、温かく迎えてくださいましたので、じつは待遇面はノーストレスでした。
ただ国会は、民間からはまったくわからない世界。“老舗大企業” 自民党の “新入社員” として、失敗から学ぶことがたくさんありました。
僕がやってしまったのは、議員になって初めての採決でのこと。まず参院議長・副議長を指名するのですが、採決には、投票用紙と自分の名札を持っていかなければならないところ……僕は名札を持ち忘れていたんです。1回壇上までのぼったのに、ひとりで戻ってくることになりました(苦笑)。
また、とても驚いたことのひとつに、『時間厳守の重さ』があります。たとえば国会対策委員会は早朝から始まるのですが、新人議員は建物の造りが左右対称で移動がわかりにくく、国会内で迷子になったり、同じく新人である秘書がスケジュールに反映しそびれたりで遅刻してしまいそうなことがあります。もし遅刻してしまうと、その場だけでなく、もちろん幹部の先生にも謝罪に行くことになります。
あとは、本会議場でケータイが鳴ったりすると、先輩方から一斉に、厳しい目線が飛んでくるんですよ。『おい、なにやってんだよ!』って。ときには、審議がストップするリスクのある行為だからです。
他山の石ではないですが、そうやってお互いに苦い思いを分かち合いますので、同期の仲間意識は自然と強くなります(笑)」
当選から3年後のいまは、IT企業・法律事務所の経営者としてのキャリアを活かし、議連や勉強会を通じて、政策・立法にたずさわる。
「会社を2つ経営していると、『これ検討しているんだけど、どう思う?』と、民間企業の代弁者として、意見を求められます。そのたびに社内で声を集めますので、民間の声を反映できる。
また、『伝統的なルールが残る法律事務所』と『新しいルールを試しやすいIT企業』ですから、両極に政策が実際的かを諮ることができます。たとえば働き方改革なら、『IT業界は対応できるが、法律事務所には拙速だな』ということを、エビデンスをもって、直接国政に提案できるんです」
一方、いち法律家としても、その知見を活かし、最大の課題に取り組む覚悟だ。
「裁判のIT化といった、本当の専門領域にも着手していますが、憲法改正に向けた国民的議論にも関心があります。法律の専門家として申し上げたいのは、『法規範は変わることを前提としている』ということ。『1度作ったものは変えてはならない』というマインドを、変えるべきなんです。
日本の憲法は、施行から73年が経っていますが、これが築73年の建物なら、建て替えまでせずとも、耐震補強や修繕は不可欠でしょう。先進国の集まりであるG7のうち、戦後にまったく憲法を変えていないのは、日本だけなんです。大事な部分はしっかりと守りつつも、国民的な議論をおこなうことは、大切だと思います」
元榮氏は、政治・選挙活動と議員生活を通して、あることに気がつく。
「政府は『働き方改革』を進めていますが、『世の中で一番時間にとらわれているのは、じつは立法機関にたずさわる国会議員を含めた、政治家なのではないか』と、経営者の視点から思っています。
若くして亡くなる議員も散見されて残念なのですが、人間ドックやガン検診すら行けず、根性論で頑張ってしまう方が多いからだと感じます。灯台下暗し、です」
世間と異なる基準で動く政界のルールを変えるのは、並大抵のことではない。
「もちろん、儀式的な要素も多くあるのが政治という世界ですから、『すべてを生産性や効率のもとに片付けることは、大きな間違いだ』と実感しています。伝統や慣習も大事ですし、いまの体制は昭和の高度経済成長期に成熟した “成功体験モデル” ですから、おいそれとは変えられない。
ただそれでも、働き方の改革や、時間の自由度向上を目指していくべきだと考えます。
僕たち国会議員は、日本が前に進むために、税金で業務の委嘱を受けている立場。たとえば、『日程闘争』はやめて、審議日程をあらかじめ決められたとおりに原則実施するなど、時間を有効活用するイノベーションを考えるのもありだと思っています」
もとえたいちろう
1975年 米国イリノイ州生まれ 慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、1999年に旧司法試験合格、2001年からアンダーソン・毛利法律事務所(当時)にて企業法務弁護士として活躍。2005年1月に退職・独立し、同年8月に「弁護士ドットコム」のサービスを創業し、2014年12月11日に東証マザーズに上場。弁護士の起業家として注目を集め、『めざましテレビ』に金曜レギュラーとして出演するなど、メディアに多数出演。一方、2016年7月の参院選に千葉県選挙区から自民党公認候補として出馬し、当選。現在、弁護士・企業経営者・国会議員として活躍
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